「地上の記憶」/白山宣之

地上の記憶 (アクションコミックス)

地上の記憶 (アクションコミックス)

どこかで「漫画で読む小津映画」という評を読んで買ってみた本。とてもよかった。特に冒頭に収録されている「陽子のいる風景」と「ちひろ」は素晴らしかった。何度も読み返す作品になると思います。
どちらも、特に何が起こるということはなく、情景を観察しているかのような漫画なのだけど、そこに映されている風景の温度、祭りの夜に表通りから裏通りに入った瞬間に遠くなる音、暗闇の濃さ。そういったものが懐かしいもののように吹いてくることを感じる漫画だった。
こういった視線で描かれる漫画って今まで他に読んだことがあったかな。そこに描かれているお話より、その情景自体を見ているのが心地よい漫画でした。
後半の歴史物はまたちょっとおもむきがかわるのだけど、特に合戦を庶民の目から見た「picnic」とかとても新鮮だった。歴史ものを読んでいると、その世界にいる今の自分のような、ごく普通の庶民はどう過ごしてるのかな、と思うことが多いのだけど、ここに描かれるピクニックのような合戦見学は、今現在との共通点も感じられた。

この単行本で初めて名前を知った作家さんなのですが、とても残念なことに2012年に亡くなられたそうで、この本には交友のあった様々な漫画家の方々が追悼文を寄せています。
冒頭に書いた、小津映画に近いというのは山本おさむさんの文章にもでてきましたし、いくつかの追悼文で触れられているように、とても映画がお好きな方だったとのことで、ぜひ映画も漫画も好きだという人に、読んでみて欲しいなと思いました。読んでよかった。