忘れられたワルツ/絲山秋子

忘れられたワルツ

忘れられたワルツ

毎日は続いているのに、何かが少しずつ決定的に違っている世界を描いたお話が多く、直接触れている作品はたぶん1作だけだけど、東日本大震災以降に書かれたことをはっきりと感じる短編集でした。これまで読んだ絲山秋子さんの小説でいえば、私が初めて読んだ「袋小路の男」という短編集に一番印象が近いかもしれない。
もうもといた世界には戻れないのだと気づくことになる、少しホラー的な「NR」からの3作品は勢いで一気に読んでしまった。あそこで一緒にいるのが同僚だということが、帰宅難民のことを思い出したりもした。

神は苦しんでいるひととともにある。しかし誰も助けない。誰も救わない。/p170

そう呟く主人公が神とすれ違う「神と増田喜十郎」のラストシーンは特に印象的だった。こういうところが、私が絲山秋子さんの小説を好きな理由だとも思う。

今まで重ねて考えたことなどなかったけれど、この作品はポール・オースターにとっての「ブルックリン・フォリーズ」に近い位置づけの作品なのではないかとも思う。