「星を賣る店 クラフト・エヴィング商會のおかしな展覧会」@世田谷文学館

平日に休みをとってみてきました。
展示されているもの一つひとつが物語に通じる小さなドアで、その先をあれもこれもと次々に覗かせてもらうような展覧会でした。とても楽しかったです。

最初の部屋は白い箱に入れられた「商品」が並ぶ展示。一つひとつに添えられた説明文をじっくり読むのが楽しい。特に気に入ったのは「シガレット・ムーヴィー」「雲砂糖」「A」などなど。上のチケットの☆の部分を使った展示もありました。それから「ヨイッパリ・ベーカリー」などは行ったことのあるケーキ屋さんで売られていたことがあると書いてあって嬉しくなったり。本当のことも作り話も、そこにあるということで現実に繋がっているのだという感触がある。

展示を見ているうちに思い出したのは、幼い頃に入り浸っていた父の部屋のこと。仕事柄父の部屋にはたくさんの本があって、小さな部屋の奥にまた本棚で区切った人一人がようやく立てるほどのスペースがあった。幼い頃、私はよくそのほこりっぽい隙間に潜り込んで、日に焼けた本をあれこれ取り出しては、その一つひとつの中に異なる世界が広がっているのだということになぜかなんでもできるような気持ちになったものだった。
そこには、ふるびたインク壺がブックエンドのように使われていて、それがインク壺であると知ったのはそれからずいぶん後のことなのだけど、あれをいつか貰い受けるということが私の密かな野望だった。インク染みのある緑のカーペット、日に焼けたカーテン、キラキラとひかる石炭みたいな石。云々。

クラフト・エヴィング商會の本は、数えるほどしか読んだことがないので、これはあのお話にでてきたあれ、というような楽しみ方はなかなかできなかったのだけど、
そのような長らく思い起こさなかった光景を思い起こし、また新たな扉をいくつも頭の中に持ち帰ることができたような気持ちになれただけでもとても贅沢な展覧会だったと思います。幼い頃の私にこの展覧会を見せてあげたいとも思った。

特によかったのは展示室と展示室の間に作られた、古書店と作業室のある街角の実物大ジオラマ。すごく気に入って何度も行き来してしまいました。作業室の壁には様々なメモが張り巡らされていて、思いついたことをこうやって幾度も振り返るというのは楽しそうだなあと思った。特に忘れられないのは、そのメモの中にあった
「考えるということは、そこから(ひとまず)外へ出るということ」(メモしたわけじゃないのでうろ覚えです)
というもの。
ドアは外へ出るものでもあり、中に入るものでもあるんだなと思ったりしました。
本当にあれもこれも頭に記憶して帰りたいと思って離れ難かったのですが、購入した展覧会の図録がほんとうに素晴らしくて、あの展覧会の一部を持ち帰れたような気持ちです。この図録は、豪華執筆陣による「お客様の声」コーナーも読み応えがあって楽しいです。