夜とコンクリート

これは一生ものだと思う物語に出会うことはそう多くはないけれど、その瞬間はとてもはっきりしていて、本を閉じて立ち上がってうろうろしたあとにすごいすごい、しか言えない感じ。
この本(というかその話)を読み終えた瞬間もまさにそんな具合で、「一生ものだ」なんて、まだ一生を終えてもいないのに確信してしまうくらいこの本は自分にとっては特別な本になりました。
なので、全力でいろんな人におすすめしたいのですが、同じ町田洋さんの「惑星9の休日」とも違い、この「夜とコンクリート」についてはできるだけ、予備知識なしで読みはじめた方がしっくりくると思うので、興味のある方はぜひ以下の文章は読まずに、まず「夜とコンクリート」を読んでみて欲しいです。

夜とコンクリート

夜とコンクリート

昨年末のベスト10日記(id:ichinics:20131227:p1)で「惑星9の休日」について、懐かしい夢のようなSFと書いたけれど、懐かしさというのはさびしさにも似てると思うんです。まだ2冊しか読んでないですが、町田洋さんの作品の共通点はその「さびしさ」なのかもしれないなと思っています。
「夜とコンクリート」に収録されている短編4作の間に繋がりはないけれど、第1話のタイトルである夜とコンクリートという言葉からイメージするしんとしたさびしさは全てのお話に共通していて、でもそれは懐かしさを感じるものでもあって、とても安心する。

今回前もって「できるだけ予備知識なしで」と書いたのは、2つめに収録されている「夏休みの町」を読み進めていったときの驚きと納得がすばらしかったからです。
それは例えば、私の「一生もの」のうちの1冊である大島弓子「ロストハウス」(id:ichinics:20071021:p1)を読んだときの気持ちとも似ていました。まっすぐに沈んでいったところで不意に水面に顔を出すみたいな、世界がパッとはじけてまったく新しく見えるような、そんな瞬間に出会う感じ。
そして町田洋さんの漫画の特別なところは、言葉より先に、絵が懐に飛び込んでくるような気がするところだと思います。
読めてよかった。

ちなみに「夏休みの町」は第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作とのことです。