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 高野文子さんトークショー@リブロ池袋本店

先日発売された、高野文子さんの12年ぶりの単行本『ドミトリーともきんす』の発売を記念したトークショーへ行ってきました。
実物の高野文子さんを拝見するのはこれが2回目。1度目は昨年吉祥寺で行われていた「さぶん市」*1の会場でのことでした。さぶん市の会場には、平日の夜にしかいくことができず、夜ともなればあらかた品物は売れてしまって、買えるものが何もなかったのですが、それでも往生際悪くまわりをうろうろし、出る間際に「大好きです」とだけ伝えて帰宅したのでした。高野先生は、あら!という表情でありがとうございます、とおっしゃってくださり大変に幸せでした。
なのでこのトークショー&サイン会へ伺うのもはっきりいって完全に、うかれきっていたのですが、その期待を上回る、とても興味深いお話をたくさん聞く事ができました。

ドミトリーともきんす

ドミトリーともきんす

トークショーは高野先生と編集者の方の対談形式で行われ、主に編集者の方が時系列に沿ってともきんす制作の裏話を話してくださるのに、高野先生が補足を加える、というような形だったと思います。
以下、特に印象に残ったお話をメモしておきたいと思います。

フィクションへの興味

今回の担当編集の方が最初に高野文子さんに執筆依頼をした際には、「フィクションを書く気持ちではないから」と断られたそうです。この事について、高野先生は、フィクションで自分のことを描くのは、描いてもきりがないのだとわかり、興味が薄れた(大意)とお話されていました。そして、たしか、その際の返信メールに「今は自然科学に興味がある」と言う言葉があったことをきっかけに、担当編集の方が(もともと理系の方だったとのことで)いくつかの本をおすすめしたそうです。その中に『トムキンスの冒険』という本があり、これを高野先生が気に入られたことをきっかけに「ともきんす」の企画がスタートした、とのことでした。

ともきんすのルール

ともきんすは、とも子さんと、その娘のきん子ちゃんの営む「寮」に、過去の科学者達が下宿しているという設定で、1ページ目が導入、2ページ目からエピソードを描き、最後のページで一節とともに書籍を紹介する、という構成になっています。
このシンプルな構成に、とてもたくさんのしかけや工夫がこらされていることも、お話してくださいました。
まず1ページ目と最終ページのともこさんの洋服にはベタが塗ってある。けれど2ページめからは、「下宿人」の側にベタが塗ってある。このことで、物語の焦点が切り替わり、階層が変わったことを自然と把握できるんですよね。この説明に、会場からは、おお…という声が漏れていました。
そして、とも子さん&きん子ちゃんという「現代の人」と、科学者たちの「過去の人」、それぞれ描いているペンも違うということを知り、さらにびっくりです。キャラクターデザインが違うなとは思ってたのですが「現代の人」は製図ペンで描き「過去の人」はたしかスプーンペンっていってたかな…? 手塚治虫風に描いているとのことでした(朝永くんが特にかっこいいです)。
他にも人物配置などにも様々な工夫が凝らされていて、ああ本当にすごい人だなあと改めて尊敬したのでした。

ともきんすの設定

高野文子さんは漫画を描くときに、まず家の間取りを考えるそうです。これは『黄色い本』等でも同じで、その間取りの中で、人物がどう動くのかということを考えて漫画を描きはじめるのだそうです。
「ともきんす」については、会場に模型がおかれていました。とも子さんときん子ちゃんはこの辺りに寝ている、とか、とも子さんは科学者たちの住む「2階」へはあがれない、きん子ちゃんはたまに行ける、など様々な設定をお話してくださったのも楽しかったです。ちなみにとも子さんのだんなさんは学校の用務員さんをしているそうです。

興味

トークショーを聞いていて感じたのは、とにかく高野文子さんは興味を持った事について掘り下げて行くのが好きな方なんだなと感じました。
「ともきんす」を描くために読まれたという科学者たちの本はもちろん、最終回、最後のページに描かれている幾何学模様(ネット連載時に掲載されていたものとは異なります)へのこだわりなどは、会場で聞いていて??となった人も多いのではないでしょうか。
でもお話をきいていて、わたしもこんな風に、興味を掘り下げながら暮らしていきたいなと、改めて感じました。


「ドミトリーともきんす」について、高野文子さんは、自分を出さないように描いた、とおっしゃっていました。この言葉は、冒頭にもあった「自分のことを描くのはもういいかなと思った」というお話の続きでもあると思うのですが、「ともきんす」は実在の人物や書籍について描いたお話ながら、しかしそこには上に描いたような工夫や高野先生の「興味」が詰まったものになっていて、私はそれを読めるのが本当にうれしいんだ、と思いました。
12年ぶりに高野文子さんの単行本が出版される、という夢を実現させてくださった、編集者の方にも本当に感謝したい気持ちでいっぱいです。

余談ですが最後サインをいただくのに並んでいる間、なんてお声をかけようか散々悩んだのですが、緊張してしまって「大事にします!」しか言えませんでした。大事にたくさん読みます。