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 春から夏

日記

桜の木が葉桜になる過程は何度も見てきたけれど、夏が近づくとその葉の色がぐっと濃くなるということを目で意識したのは今年が初めてのような気がする。
梅が咲いて桜とミモザが咲いて、黄色い方のミニバラが咲いて、大きなバラ、ピンクの方のミニバラはその次で、と自分で育てているわけでもない、近所の植物の開花順を確認してまわって、すべて世はこともなし、と思う。
5月になる少し前から、お弁当屋さんの軒先にツバメが巣を作りはじめた。今はもう雛が生まれていて、朝、信号待ちをしている間に2往復はしているので本当に働きものだ。そういえば実家の最寄り駅の喫茶店にも毎年ツバメが巣を作る場所があった。糞対策として、巣を作る場所の少し下に鉄の板を設置したりしていたけど、その後もツバメは巣をつくっているのだろうか。
なんてことを考えているうちに信号がかわり、低空飛行のツバメが私の頭上を滑っていく。目の端を横切った女性がお弁当屋さんのシャッターを開ける。あの人が店長なのかな、と思いながら、私は振り返らず駅へと向かった。
反復する風景や景色の中にも少しずつ差異があって、そのような差異に気づいたときは見慣れた風景の中に小さな花火があがるような感覚になる。
そういうことはふだん、誰にも話す事がない。オチがない話はなるべく人にするべきではないというのが礼儀のような気がするからだろうか。話そうと思うこともないのだけれど、日記になら書く事ができるので、世の中には日記でしか語られない出来事というのが案外多いのかもしれない。