ポイントカード

2か月も経てば、新しい町での暮らしというものにも大方慣れて、行動パターンも決まってくる。
例えば、この町は大学が多いからか食べ物屋はチェーン店ばかりで、外食することは減ったけれど、駅前の大きなスーパーが遅くまで開いているおかげで、食材をこまめに買い足すことが出来るようになった。駅前の書店は小ぢんまりしていて、欲しい本はほとんど見つからないため、毎日書店を覗くというよりは、買いたいものがあるときに大きな書店がある駅に寄るようになった。喫茶店は充実しているので仕事帰りに本を読みに寄ることが増え、以前よりは、まあまあ、読書も捗るようになった。

そんな具合に、よく利用することがわかったスーパーや喫茶店のポイントカードを新たに作り、私の財布は膨らんでいた。最近はスタンプなどではなくチャージ式でポイントがつくようなカードが増え、それはなんとなくお得なような気もするけれど、ついでに新しい財布が欲しくなってしまったら節約にならない。

それなら、と古い町のポイントカードを取り出すことにする。ついこの間まで毎日のように使っていた駅ビルのポイントカードも、今月はまだ使っていない。スタンプカードで何回もドリンクサービスを受けた喫茶店は、駅から離れているからもう行かないだろう。
「捨てる」の山にそのカードを置き、前の家に引越した夜、コインランドリーを使うついでにこの店に寄ったことを思い出す。その日の私は、新しい町で暮らし始める最初の日に、ここでお茶を飲んだことを、忘れないだろうと思った。
ドラッグストア、雑貨店、何の店かわからないスタンプひとつ押されたきりのカード、使用期限の切れた割引券。それなりの厚みになった「捨てる」の山をゴミ箱に放り込み、それなりの厚さにもどった財布をかばんに戻す。

そのようにして引越しが終わったことを、私はいつかきっとまた、思い出すのだろう。