火星の人/オデッセイ

映画「オデッセイ」の宣伝がはじまった頃、たぶんtwitterのTLでその原作が「火星の人/The Martian」というタイトルの小説であると知り、そのシンプルなタイトルと、どちらかといえば感動大作のような雰囲気に見えた映画の予告とのギャップが気になって、まずは小説の方から読んでみようと文庫を買ったのが昨年末。なんだかんだ読みはじめるのが遅くて、上下巻を読み終えたのは公開数日後でしたが、読み終えた翌日に映画を見に行けたというのもよかったなと思っています。どちらもとても面白かった。

「火星の人」は、有人火星探査計画のクルーとして任務にあたっていた主人公が、突如襲われた砂嵐の中、不運が重なって「亡くなった」と思われ、一人火星に置き去りになってしまう……というところから始まるお話。ただし、この物語の主人公マーク・ワトニーは、火星に一人きりという絶望的な状況におかれても、自暴自棄になったり、ホームシックに泣き濡れたりはせず、現実的な計算を繰り返し、生き残るための道を模索していきます。この主人公像こそが、この物語最大の特徴だと思う。
マーク・ワトニーは植物学者であるという自分の得意分野を活かし、感謝祭のために持ち込まれていたジャガイモを種芋として、まず畑作りを開始します。とりあえず火星に有人探査機が再びやってくる4年後まで生き残ることを目標とし、どのくらいの土地面積で栽培すれば目指す収穫を得られるか、というところまで計算して行動しているのがすごい。
活力があり、ユーモアを忘れず、創意工夫に富んでいる。そういうワトニーの魅力は、映画版でもきちんと描かれていたなと思いました。

ただ原作の雰囲気は「火星に取り残されてるけど質問ある?」ってスレッドが立った、誰もいないけど書いてくね、みたいな感じなので、映画の方がもうちょっとシリアスだと思います。
火星での生活をかなり細かく描写した原作を約2時間にまとめてあるため、映画はかなり端折っているところもありますが、原作を読んだ直後に見たおかげで「この太陽電池を持ってくるためにはあんな苦労が…」とか「この水分を作りだすための紆余曲折が…」とか「ローバーが倒れたときは大変だったよね…」とか思い出しながら見れたのも楽しかったです。

原作者のアンディ・ウィアーさんは、15才頃からプログラマーとして働いていたというのでかなり頭の良い人なのだと思いますが、この物語で描かれる火星でのサバイバル生活の描写もとても具体的で、こんなふうに、知識を物語の展開に活かすことができるくらいまで身に付けられている、ということは、いったいいくつの得意分野がある人なんだろう……と恐れ入る気持ちになりました。
そしてその知識の描き方も「解説」になってしまわず、ちゃんと読めば理解できるくらいに噛み砕かれているのがすごい。

自分が火星に取り残されたらどうなるかなーと想像してみると、ワトニーみたいにあれこれ思いつくだけの素地がないことを痛感し、やはり知識というのはそれを組み合わせて使うことができるようにならなくちゃ意味がないんだよなーと思ったりもしました。
なので、映画を見終わった後、真っ先に思ったのは「頭がよくなりたい」でした。
あとクルーの1人が残したディスコミュージックを聴きながら作業をするんですけど、あれがフォークとかじゃなくてよかったなとも思った。原作に出て来るBGM選びの描写だと、「アローン・アゲイン」じゃなくてよかった。
ディスコが好きじゃなくても、ディスコミュージック聴きながら悩む気にはならないもんな。

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)

火星の人〔新版〕(下) (ハヤカワ文庫SF)

火星の人〔新版〕(下) (ハヤカワ文庫SF)