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 5月の風景

日記

先月は月初めから、あちこちで警視庁、と書かれたベストを着た人を見かけた。多くは体格の良い男性で、道角に立ち止まって辺りを見ていることもあれば、人の流れに乗って、街を歩いていることもあった。
ある日、図書館に本を返しにいった帰り、緩やかな坂道を、警視庁の文字を見ながら登るような格好になったことがあった。あたりに人影はなく、坂道には私と、その後姿だけだった。
制服のすそはブーツにしまうのが決まりごとのようだが、その足元を眺めていると、自転車に乗る際は必ずズボンのすそを靴下に収納していた、父親のことが思い出された。
くるぶしより少し高いブーツにはベルトが3本ついていて、格好良いけれど履くのに時間がかかりそうだなと思った。

坂道を上がりきる手前で、後姿は横道に逸れて行った。
私はそのまま直進したが、大通りに出ると新たに3人の〈警視庁〉が現れた。
彼らが全て警察官なのだとしたら、いったい今まで、どこで活動をしていた人なのだろうと思う。
もちろん、休日返上で警備に当たっているのだろうし、図書館のすぐそばには皇居もあるので、警備が手厚いのもわかるのだけれど、
見慣れた人の流れに濃紺の制服が混じる様子はなんだか非日常にように見えて、
それがすっかり消えてしまった今もまだ、彼らがどこから来て、どこへ行ったのか、ということを妄想するのが、暇なときの楽しみだったりする。