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くつした

日記

定期的に考えているのに、特に誰に言うわけでもなく、もしかしたら墓場まで持っていきそうな話、という事柄は誰にでもあると思う。秘密とかではなくて、あまりにもとるにたらなくて、声に出す前にまあいいか、と思うような話。
例えば、私は今日、水色の靴下をはいている。ちょっとサイズがでかくて、いかにも男性用の靴下だ。
会社なので、その靴下サイズ大きいんじゃない、とか、男性用じゃないの? なんてことは誰も言ってこない、ので、この靴下について説明するチャンスもない。
でも私がこの靴下を取り出すとき、思い出すのは、この靴下は本来、弟の靴下だったということだ。

何年か前、夏生まれの私と下の弟の誕生日会として、家族(父親はいなかった)で外食をしたことがあった。
母親が予約をしてくれたステーキ店で、案内された個室はなぜか人数に対してかなり狭く、皆で肩を寄せ合ってステーキを食べることになった。
夏で、しかも人数が多いこともあって個室には熱気がこもり、母親は暑い暑いと言い続け、店の人に空調を強くしてくれ、と頼んだ。
そして、妹がおなかをこわした。
妹は胃腸が弱く、緊張したり、急にたくさんものを食べたり、空調が効きすぎていたりするとすぐおなかをこわす。
自分の体調について勝手知ったる妹は「ちょっと先に帰るから、これ誕生日プレゼントね!」と、私と下の弟に紙袋を渡して去り、やがてまもなく全員解散になった。

家に帰って紙袋を開くと、中には水色の、シンプルな靴下が入っていた。ありがとうとメールを送って、その日はそれきりになっていたのだけど、
後日、実家で顔を合わせた際に「そういえばこれ、もらった靴下」といって履いていたものを見せると「それ○○ちゃん(下の弟)にあげるつもりだったやつ…!」と言われたのだった。
弟は弟で、彼の普段の好みからするとずいぶんと派手な色の靴下を受け取り、少々サイズが小さいような気がすると思いながら、本来私のものであったはずの靴下を履いていたらしい。

それでも一度履いたものだからといって、私達はそのまま、それを履き続けている。

もしもあの時、私たちがもらった紙袋が入れ替わらなかったら、どうなっていたのだろうか。
とりあえず、この日記を書くことはなかった、ということだけは確かだ。