読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

クリーピー 偽りの隣人

監督:黒沢清

友人の評がラジオで読まれたと知り、それが聞きたくて急いで見に行きました。予備知識は入れない方がいいよ、と言われたので何も見ずに(予告も見たことなかった)行ったのですが、これがとても面白かった。
ネタバレ、というか、元ネタになっているのが何かっていうのも知らないで見たほうが面白い気がするので、これから見ようと思っている方は、以下スルーしてください。

というわけで感想ですが、まずはとにかく香川照之さんのサイコパス演技が最高に怖かった…。
映画の冒頭に、引越しの挨拶に行った主人公の妻が初めて香川照之さん演じる隣人に出会うシーンがあるのですが、そこで

「犬はちゃんとしつけてあるんで」
「え、犬、しつけるんですか?」
「……ええ」
「へえ、いいと思いますよそういうの!」
(記憶で書いてるので正確な台詞ではありません)

というような会話がある。
この、会話をしているのに噛み合っていない感じは、「ノーカントリー*1に出てくるシガーを思い出したりもした。

映画では、主に妻が関わるその不気味な隣人とのやりとりと平行して、元警察官である主人公が調査しているある行方不明事件の概要が明らかになっていくのですが、この2つの出来事が平行して描かれるうちに、「もしかしてこの映画はあの事件が元ネタなのでは…」と気付いた瞬間が一番恐ろしかった。
とはいえ、その元ネタに重ねて見たからこそ、想像を掻き立てられて怖かった、という部分もあると思うので、そこを抜きにしたらいろいろと納得し辛い部分もあるような気はする。

それでも、主人公、妻、隣人、その「娘」、という4人の、画面を通して見えることだけが真実ではないと思わせる信用のならなさ、という部分は充分に描かれていて、人が他者を「理解する」と感じることは、常に錯覚なのだ、と思わされるような映画だった、と思います。

黒沢清監督ならではの、一見何もないように見えて何かがこわい、見てる側を不安にさせる仕掛けもたくさんあった。
特に印象的だったのは、主人公の妻が隣人に差し入れを持っていくシーン。なんとシチューをガラスのボウルにたっぷり入れてるんですよ…。
普通ガラスのボウルにシチュー入れませんよね。しかもたぷたぷに入れてるんですよ。それだけでもう落ち着かない。
こういう細かな演出が随所にあって、黒沢監督は日常生活で何を考えて生活してるんだろうな…とか考えたりもしました。

「娘」役の藤野涼子さんもとてもよかった。この子の信用ならなさが、「元ネタはあれだけど違うかもしれない」という落ち着かなさにもなっていたように思う。
あと東出昌大さんの、身体のバランスが並外れて良いのに無表情、という存在感の不穏さも印象に残りました。

けして万人向けの映画、というわけではないと思いますが、日常の地続きにある深い穴みたいなものを否応なく意識させられる印象的な映画だったなと思います。
ムービーウォッチメンでも触れられてましたが黒沢監督映画定番の半透明の遮蔽物も随所で怖い! 面白かったです。