推しの卒業とミュージカル「王家の紋章」

私の推しメンである宮澤佐江ちゃんが舞台「王家の紋章」に出演するというニュースを知ったのは2015年7月14日のことでした。
今や48グループの恒例行事となった第7回選抜総選挙が行われた約ひと月後のことです。
第7回の総選挙前に、佐江ちゃんは自身のTwitterなどで「これが最後の総選挙」という発言をしていました。その言葉の後押しもあり、結果は過去最高順位の8位。
ファンはその結果を喜びつつ、来年の今頃にはいないのだという寂しさを感じていた中での発表でした。
帝国劇場で行われる舞台の、しかもヒロイン役(Wキャスト)という大役で、きっとこの舞台が、卒業後の初仕事になるのだろう、と思いました。

翌2016年の3月に卒業コンサートが行われ、グループ在籍10年目の記念日であった4月1日をもって宮澤佐江ちゃんは48グループを卒業しました。
卒業までの間、握手会などで、別れを惜しむばかりでなく、「王家の紋章」への期待について語ることができるというのはとてもありがたく、嬉しいことでした。卒業しても終わりじゃない。これからの佐江ちゃんも応援できる。だから寂しくない、という気持ち。

そして迎えた2016年8月「王家の紋章」です。
私が帝国劇場に行ったのは、なんとまだ学生の頃に親と一緒に「レ・ミゼラブル」を見に行って以来のことでした。
……ということからもわかるように、私はあまりミュージカルを見たことがありません。
舞台自体、年に5作品見るかみないか程度。
今回のキャストの方も、ニュースで見た当時はキャロル役(佐江ちゃんとWキャスト)の新妻さん、そしてイズミル役(Wキャスト)の1人である宮野さんしか知りませんでした。

その程度のリテラシーなので、比較対象として思い浮かべられる舞台がほぼないのですが、そんな私から見た、舞台「王家の紋章」は突っ込み所もありつつ、とても楽しめた舞台でした。

王家の紋章」は1977年に連載がスタートし、なんと現在も連載中、という超長寿作品です。
物語は、主人公であるキャロルが、古代エジプト時代にタイムスリップしてしまうというところから始まるのですが、未だ連載中ということからもわかるように、タイムスリップについては未だに解決していません。
なので舞台版でもその部分の解決はありませんし、それでいて原作の4巻目くらいまでの出来事を比較的忠実に描いているせいで、脚本のテンポが悪いなと思うところもありました。
特に、一度現代に戻ってから再び古代に戻る、という部分は、なぜタイムスリップ現象が起こるのかはっきりしないため、冒頭のタイムスリップシーンに比べるとあっさり行き来できているように見えてしまい、だとするとあそこまで歴史に干渉しているキャロルの存在は…? などなど気になるところは多々あります。

それでも初めて見た日(8月7日のマチネ)の私は佐江ちゃんのファーストシーンでもう泣いてましたよね…。

初めて「ミュージカル」に出演した佐江ちゃんを見たのは2011年の「ダブルヒロイン」でのこと。準備する時間がまったくないうえに体調不良という最悪のコンディションでの公演だったため、その後も本人はあまり語りたがらず、舞台にでるときはしっかり稽古の時間をとりたいと発言するようになったきっかけであった舞台だと思います。
当時の佐江ちゃんはけして、歌がうまくはなかった。佐江ちゃんといえば「ダンス」であり、歌も下手、というほどではないけれども、鼻にかかる声は音域が狭いイメージもありました。
けれどその後、地球ゴージャス「クザリアーナの翼」コルリ役、「AKB49」浦山実役(主演)と舞台の経験を積むごとに、佐江ちゃんはファンの期待を上回るものを見せてくれました。
特に「AKB49」は私がAKBファンであった間で最も感動したコンテンツのひとつとなりました。

帝国劇場でヒロイン役、という大役がきたのは、ファンとして嬉しくもあり、同時に本人は相当なプレッシャーだろうなと感じるキャスィングでした。それでも、それまでの佐江ちゃんを見ていたからこそ、きっと大丈夫、という思いもあったのです。

歌い出しを聞いた瞬間に泣けてきたのは、やっぱり佐江ちゃんだ、という思いがあったからだった気がします。
緊張の色を感じさせつつも、堂々と歌い上げるその声はほんの数ヶ月前の卒業コンサートと比べてもまるで違う、ミュージカルのために鍛えた歌声になっていました。
もちろん他キャストのかたがたに比べればまだまだだとは思います。
それでも今回の役の「現代からタイムスリップしてきたちょっと勝気な女の子」という役柄に、その異物感はちょうどよくなじんでいた気がしました。
なによりアイドル時代はボーイッシュ担当で「AKB49」では男性役を演じていた佐江ちゃんがお姫様になっていることにも感動してしまった。細!かわいい!でもキリッとするとボーイッシュさでてる!でもそのギャップがかわいい!という感じで忙しかった。

ハラハラするようなことは全くなく*1、なので集中して舞台を楽しむことができた私が、連れと幕間で叫んだのは「メンフィスかっこいい!!」であり、終演後に叫んだのは「ルカかっこいい!!!」でした。
メンフィスというのは古代エジプトのファラオなので、非常に傲慢なキャラクターです。そんなメンフィスが、イレギュラーであるキャロルに振り回され、恋をして、それでも「私の傍にいろ!」と命令しかできないもどかしさ、だだっ子感にはたいへんときめきました。身近にいたら嫌だけどそういうキャラクターにときめけるのはフィクションの楽しさですよね。
そしてルカを演じてらした矢田悠祐さんはお顔も立ち姿も大変に美しく、特に終盤の、壁際で盗み聞きをしているシーンの姿勢が最高にかっこよかった。二重スパイの役柄なので常にポーカーフェイスなのも素敵でしたね…。
メンフィスとキャロルを巡るライバルであるイズミルは(見に行った回すべて宮野さんの回でした)原作とイメージが少し違いましたが、メンフィスと対照的な雄雄しさがありかっこよかった。宮野さんは声量がすごいですね!
しかし何より圧巻だったのは、原作ではヒールに近い、アイシスの存在でした。
弟のメンフィス向ける切ない恋心がすれ違っていう様が非常にもどかしく、そこで歌われる曲のすばらしさもあいまって、むしろもうひとりのヒロインとして描かれていたように感じました。
ただ、キャロルのタイムスリップの原因でもあるという設定は残されているため、邪魔な存在を自ら招いたという矛盾を解決せずに終わるというところは少々消化不良な気もします。
全体的に弟大好きな姉と妹大好きな兄の圧力(2人とも歌が大変うまい)で押し切られた感はありました。

そんなわけでいろいろ思うところがないわけではないけれど、推しの出演作としても、少女漫画原作の舞台としても個人的にはとても楽しめた。
正直、推し目線を排除しては語れないのでなかなか感想を書きづらかったのですが、それでもやはり楽しかった、という気持ちはしっかりあるので書き残しておきたいと思いました。

王家の紋章」はめでたいことに来年に同じキャストで再演が決まっているので、次に見るときにどんな風に変わっているのか、今からとても楽しみです。次はもう一人のキャロルとイズミルのキャストでも見てみたいなと思います!


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*1:何様だという感じですがほんと孫の活躍を見守るような気分なんですよ……