ちはやふる 結び

一昨年公開された「上の句」「下の句」がとてもよかったので完結作であるところの「結び」も楽しみにしていました。なかなかタイミングが合わずに見にいくのが随分遅くなってしまったけれど、本当に見に行けてよかったし、改めて映画「ちはやふる」は、原作の大事な要素を尊重して作られた青春映画の名作だと感じました。

ちはやふる」の好きなところは、物語の登場人物の誰も「脇役」にならないところ。
映画もその点をしっかり受け継ぎ、それぞれに意志があり思いがありだから今こうしているということを、過不足なく説明していく。
例えば、太一目当てで入部した菫ちゃんが、太一が部を去った後もかるた部にい続ける理由について、詳しくする描写はないのに納得できてしまうのは、きっかけを作ったことに罪悪感を感じている描写はあれど、それだけで残っているとは思えない態度や表情の積み重ねがあるからだと思う。だからこそ、彼女が初めて試合で札を取れた瞬間にぐっときてしまう。
筑波くん*1についても、対戦相手とのやりとりで少しその背景を想像させるにとどめて、実はこういう過去があって〜みたいな説明をしない。けれど、運命戦の失敗で彼が何を後悔し成長したのかというところを、映画の序盤と後半の対比できっちり見せる。これは本当に素晴らしい脚本だなと思いました。

原作のちはやふるも、ちはや&新&太一については美男美女だけども、他のキャラクターはかなりバラエティに富んでいるところがいいなと思う。先日も、少女漫画で「容姿が秀でているわけではない」造形のキャラクターを出すことの難しさについて考えていたのだけど、ちはやふるに関しては、決して美男美女として描かれているわけではないキャラクターも「モブ」として扱わない、ちゃんと主人公になるキャラクターとして描いているところが好きだなと思う。原田先生(好き)だってコミックスの表紙になる漫画。

そしてそれぞれの思いが「かるた」を通して交わる瞬間を描く作品でもあるので、そのほかのことは、たとえ恋愛だって1番にはならないというのも「ちはやふる」がスポーツ漫画と言われる所以なのだと思う。
思春期なので恋をしているメンバーがいるのは自然だし、もしかしたら画面には映らない場所でみんなにそれぞれの恋があるのかもしれない。
映画でも、ちはやが屋上(?)から向かいの教室内にいる机くんたちを見ている場面などで、彼らには部活以外の世界もあるのだときちんと示している。
そのうえで、彼らの最優先事項がかるたである「瞬間」を描いて見せるのが最高に好きです。
青春映画の醍醐味って、そういう瞬間が描かれることにあるのかもしれないな、と思ったりした。

それぞれの意志や思いがかるたを通して交錯し、その先へと続いていくことを予感させる。「結び」はその交錯の瞬間を描いた作品なのだと思います。

余談

ただ!松岡茉優さんの若宮詩暢は本当に最高すぎるので松岡茉優さんと広瀬すずさんが女子高校生をやれるうちにこの2人の対決をスピンオフで撮ってほしい気持ちはあります。いや、ないからいいのかもしれないとは思うけど、松岡さんの詩暢ちゃんがとにかくもっと見たかった…。
それから、太一役の野村周平さんと、元北央の須藤さん役の清水尋也さん、電影少女でも共演してましたけどそういえばちはやふるのこの2人か!ってなりました。女子にキャーキャー言われる太一役を見て帰宅したら「帝國の一」をやってて、野村周平さんの振り幅すごいなと思いました。

*1:おそらく筑波くんと田丸さんをまとめたキャラクターになっている