光の館に泊まった日記

この数年、GWを過ぎた頃に10人前後で1泊旅行に行くのが恒例になっている。
会うたび「来年はどこに行こうかね」と話すのももはや口癖の域なのですが、今年、2018年についてはなんと昨年末から行き先が決まっていたのでした。なぜなら友人が新潟にある「光の館」の予約をしてくれたので…!

「光の館」は、「ジェームズ・タレルの作品として第1回「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(2000年)で生まれたものhttp://hikarinoyakata.com/)」とのこと。私が知ったのは、在華坊さんのブログからで、今回も出発前に再読して参考にさせていただきました。感謝。

光の館に泊まる - 日毎に敵と懶惰に戦う
光の館に12人で泊まる - 日毎に敵と懶惰に戦う
光の館に12人で泊まる、再び - 日毎に敵と懶惰に戦う

出発

チェックイン時間が16時と決まっていることもあり、朝は東京駅に9時半くらいという遅めの待ち合わせでした。
とはいえ、この「意外と遅め」で慢心した私は、あと10分…なんて延長を繰り返したおかげでギリギリの時間に起床。完全なる空腹状態で東京駅につき、おむすび(唐揚げ入り)とビールを購入して新幹線に乗り込みました。越後湯沢でお昼ご飯の予定が入ってなかったら駅弁を買っていたテンションだった。むしろ「お昼あるからおにぎりにしておいたんだよね〜」的なことを話していた気もしますが、おにぎりでそれなりに空腹が満たされてしまったせいか、いざ越後湯沢に到着してお昼ご飯!となったところで、注文したランチメニューを食べきれない…という失態をやらかしてしまい反省からのスタートでした。
ご飯はとても美味しかったです。さすが米どころ、米がとにかくおいしい。


食事の後は「光の館」のある「十日町」へ。
十日町までの車内では、各々インターネットなどをして過ごしていたのですが、長いトンネルになると(電波が途絶えて)皆そわそわしだすのが面白かった。途中、トンネルの中に駅らしき場所があり、狐につままれたような気分になったのですが、帰宅してから調べてみるとおそらく「美佐島駅」だったのだと思われます。

www.nta.co.jp

トンネル内にある駅は日本で7駅だけなんですね。機会があったら駅舎からどうホームへ行くのか体験してみたい。

途中、列車の点検などがあり、十日町駅についたのは予定より少し遅れて15時10分くらいでした。
「光の館」へはここからタクシーで30分程度はみておきたい、ということで慌てて駅前のスーパーで買い物をし、タクシー3台に分かれていざ出発。ギリギリ16時オンタイムに到着することができました。時間厳守なのは、光の館は管理人さんが常駐しているわけではなく、その時間に説明を受ける必要があるからとのこと。間に合ってよかった。

光の館

 外観

公式HPにあるジェームズ・タレルの言葉にも、この建物は谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』をモチーフにしている…とあったので、宿泊前に読んでおかねばと思っていたのに数ページしか読み進められないまま当日を迎えてしまった。
結局、こちらに帰ってきてから読んだのですが、なるほどと思うところがたくさんあって面白かった。
陰翳礼讃の、特に厠についてのくだりが細かくて面白かったので引用。

それらは必ず母屋から離れて、青葉の匂や苔の匂のして来るような植え込みの蔭に設けてあり、廊下を伝わって行くのであるが、そのうすぐらい光線の中にうずくまって、ほんのり明るい障子の反射を受けながら瞑想に耽り、または窓外の庭のけしきを眺める気持は、何とも云えない。漱石先生は毎朝便通に行かれることを一つの楽しみに数えられ、それは寧ろ生理的快感であると云われたそうだが、その快感を味わう上にも、閑寂な壁と、清楚な木目に囲まれて、眼に青空や青葉の色を見ることの出来る日本の厠ほど、恰好な場所はあるまい。そうしてそれには、繰り返して云うが、或る程度の薄暗さと、徹底的に清潔であることと、蚊の呻りさえ耳につくような静かさとが、必須の条件なのである。私はそう云う厠にあって、しとしとと降る雨の音を聴くのを好む。

厠について熱く語る…というところに少々おかしみはあるけれど、1人になり、ふと家の気配が立ち上がる瞬間のたまらなさは何となく想像がつく。この厠の光景だって、見たことはないはずなのにそれを懐かしむような気持ちで読んでしまった。
「光の館」の手洗いに窓はなかったけれど、薄暗く清潔であることは共通していたし、そんな風に自然の延長線上にある家屋での生活を体験できるという場所なのだと思う。

玄関

玄関は2階にある。入って右にはアウトサイドインという屋根が開く部屋があり、左手にはキッチンとそれに併設された小さな部屋。それらをぐるりと囲うように外廊下が設えられている。
玄関脇にある急な階段を降りて1階におりると、低い位置にある窓が印象的な「庭の間」と、その向かいに浴室と2つの手洗いがあった。

浴室

建物中、どこにいても薄暗さがつきまとうのだけど、そのぶん室内から見る緑の濃さや水面にうつる光の奥行きの美しさにたびたびはっとさせられる。
外廊下からの眺めもすばらしく、柵も景色を遮らないため室内からの視界が広い。朝起きてこんな場所で小一時間ぼんやりできたならどんなにか幸せだろうなと思ったし、それを1日でも体験できて本当に気持ちがよかった。

鳥目なので、階段や夜真っ暗になってしまう浴室は正直怖かったけれど、明るい生活に慣れているせいもあり、薄闇に目をこらすと言うこと自体が新鮮でもあった。

しかし真っ暗な中でお風呂に入るのは危険、ということで女性はついて早々、明るいうちに交代で風呂に入ることにした(当日は女6人、男性3人)。
風呂の後は、やることを済ませてしまった安心感からか、のんびりと酒を飲んだりしてすごす。


月髑髏のテンションで購入したこの梅酒を持参していたのだけど、1人では一升瓶を飲みきれないと思っていたので、飲んでもらえてよかったです。

アウトサイドインの部屋で夕食を食べていると、やがてナイトプログラムがはじまった。
日没と日の入りの時間に合わせて行われる光のプログラムで、移り変わっていくLEDの光によって窓から見える空の色が様々に変化して見えるというもの。色の変化に規則性や何らかの効果があるのかどうかはよくわからなかったけれど、皆でねころんで「緑だ!」「ピンクだ!」「この色すき」みたいなこと言っているだけで楽しかった。

日が暮れると結構寒い。一応天気予報で予想気温も調べて上着を持参していたのだけど、半袖にカーティガンを羽織るくらいではまだ寒い。ちょうどお土産にいただいたお茶っ葉で暖かいお茶を淹れたりもしつつ、次来るときはコーヒーもってきたいね、という話をした。
酒の続きを飲んだり、ワードウルフやワードバスケットで遊んだ後は、午前3時半頃からはじまるという日の出のプログラムに備えて早めに就寝。
……したものの、寒さで全然寝付けずうとうとしたり起きたりを繰り返していて、3時半に目覚ましが鳴るまで、体感30分でした。
それぞれ掛け布団を抱えてアウトサイドインの部屋にあがり、敷き詰めてあった布団に寝転んで天井をひらく。梅雨入りしてしまったので心配していたのだけど、夜も朝も雨は降らず、窓をあけることができたのはほんとうにラッキーだった。
布団にくるまりながら、あけていく空をぼんやりと眺めていると、次第に切り抜かれた空がすぐそこに浮かんでいるような気がしてくる。


みんなのカメラロールだいたいこんな感じになっていた。

室内にいるのに外にいるような感覚をおぼえると同時に、たとえば、手元の盃に月を映す*1…なんてことと同じように、切り取った空を家の中に持ち込んでいるような心持ちにもなった。

翌朝

4時すぎに朝のプログラムが終わり、二度寝しに庭の間へもどる。
今度はぐっすり眠ってしまい、起きたのは一番最後でした。なんとか身支度をして上にあがると、皆が朝ごはんの用意をしてくれていて圧倒的感謝だった。
昨日のスーパーで購入した、たまごかけごはんと野菜とスイカとけんちんじる*2を、外廊下にならべたテーブルで食べる。
特別天気が良い日というわけでもないはずなのに、透き通った日差しが美しくて、米粒までもが神々しく見えた。寝ぼけた頭で、朝ごはんは、このような光の中で食べるのが理想だよな、なんて考える。
食後は余ったビールを飲みながら掃除。皆働き者なのでこういうときあっっという間に片付くのがすごい。普段怠け者の私もつられて動けるのでありがたいです。

 最後のビール

チェックアウトは10時。管理人さんに館内の点検をしてもらった後、最後に玄関で集合写真をとってもらい、光の館を後にしました。

帰路

昼食後、新幹線までの時間は越後湯沢駅で過ごすことに。
と言うわけで私は行ってみたかった「ぽん酒館」へ。
主にフジロックに行ったひとたちの写真で知ってずっと気になっていたところなんですがこれすごい楽しかった!
500円払って5枚のコインとおちょこをもらって入場すると、中にはずらりと日本酒のサーバーがならんでいます。古酒、焼酎、ワインなんかも少しある。
で、それぞれコイン1〜3枚とかいてあるので、そのコインを入れおちょこに注ぐという形式です。

それぞれ丁寧な説明がついているので、好みのものを選べるのが楽しいし、コイン5枚の範囲内で楽しむという自制心が効くのもよいですね。
お塩や味噌なんかが置いてあってこれをつまみに飲むこともできます。

新幹線でさっそく「来年はどこ行こうか」「光の館もまた行きたいね」なんて話をしているうちに皆うとうとしはじめ、あっという間に東京へ。三三五五で解散し、家についたのは19時頃でした。翌日も仕事ですけどこの時間なら安心です。
いつものように風呂の中で本を読みながらふと、この家のなんと明るいことかと思ったりした。

気づいたこと

個人的に次回行くなら持参しようと思ったものをメモしておきます。6月初旬気温13度くらいの夜の日です。

  • インスタントコーヒー

夜冷えるので暖かいものが飲みたくなった

  • あたたかい上着

夜は冷える&掛け布団が薄いので寒い

  • もしあれば滑らないサンダル

お風呂場の床がめちゃくちゃ滑ります。ちょっと転びかけた。安全な移動のために皆で使える滑らないサンダル的なものがあればいいなと思いました。

  • キッチンペーパーorダスター

備え付きのふきんが割と使い込まれており、繊維がぼろぼろと落ちます。なので使った皿をふくときに繊維がつくのがきになりました。食器を使う予定がある場合はこういったものもあると便利かも。(今回はスーパーでキッチンペーパーを買っていきました)

こんなところかな?
そんなわけで「光の館」ぜひまた訪れてみたいです。

陰翳礼讃

陰翳礼讃

*1:やったことないけど漫画で読んだことがあります

*2:これはケータリングの残り