カラスウリの花

仕事を終えて外に出た瞬間、冬がくる匂いがした。
同時になにか思い出す光景があって、それが消えてしまわないようゆっくりと歩きながら、じっと目をこらす。あれは地元の、毎年夏祭りをやる神社の方面へいく細い道で、紫と墨色が混ざったような空の色を眺めながら「終わっちゃう」と焦っていたのだ。
何が終わるんだっけ。
もう一度深呼吸をして、お腹がすいたとか、牛乳買って帰らなきゃとかの合間に、なにか白いものを見たのだったと閃いた。

あれはカラスウリの花だった。
どういう経緯でのことかは忘れてしまったけれど、小学校のおそらく4、5年生の頃、私はカラスウリの花が開くところをぜひ見たいと思っていた。
そんなわけで、蕾がありそうなところを探したり、教えてもらったりしてチャンスをうかがっていたのだけれど、カラスウリは1日花なので、まるめたティッシュのような、萎れた後のものは見つけられても、なかなか開いている花を見ることはできずにいた。

初めて見たのは、Mちゃんちからの帰り道だった。
そういえば、あの神社への細い道は4年の時に天候して来て仲良くなったMちゃんの家がある方向で、

夕暮れの、粒子の荒い光の中に、ぼうっと白く浮かんでいる。花弁の周りに白い糸を張り巡らせたような花で、きれいだけど少し怖い。
まだ咲ききってはいなかったので、Mちゃんか、もしくはお母さんを呼んで来て見せたいなと思った。
けれど、辺りは刻一刻と暗くなっていき、帰りが遅くなると怒られる、という焦りもあった。
早くしなきゃと思うのに、カラスウリの花はまだ完全には開かない。それどころか暗くてよく見えなくなってきて、

今日思い出したのはその時の「終わっちゃう」だった。
早くしなきゃと、もうちょっとが入り混じるような、夏が終わる匂いだ。