台風の日曜日

日曜日の朝、推し*1のファンクラブイベントがあるため台風情報を気にしつつ、まだ晴れていたので、折りたたみ傘を持って家を出る。
イベントの開始を待つ参加者の間で「えっ」と声があがり、ざわめきが広がっていく。twitterを開き、それはおそらく「JRが8時までに止まる」というニュースによるものだと理解する。
「でもまあ終わってから考えましょう」
そう言いあい、皆ふたたび推しの登場を待つ体勢に戻る。ファンとはそういう生き物だ。

イベント後、うっすらとした不安ーーのことはすっかり忘れて「めちゃめちゃ、かわいかった〜!」とか言い合いながら外に出ると、幸いまだ雨は降っていなかった。
「こんなときはデパ地下に行くといいって安住さんが言ってた」と渋谷の地下街へ寄り道する。17時頃だったのでまだちらほらだけれど確かに割引がはじまっていて、「でも早く帰れるんだから料理する時間はあるんだよね」「そういや肉解凍してきたんだった」なんて話しながら、結局ケーキ(割引にはなっていない)だけを買って帰路につく。

まだ夕方の範疇ともいえる時間に帰宅したので、ちょっと時間のかかる料理をしようと思い立ち角煮をつくることにする。「きのう何食べた?」で紹介されていたレシピを試してみたいと思って肉を買っていたのだが、色々と材料が足りず、結局自己流に。他に2、3品作り置きを用意してもまだ外は小雨程度だった。

食事を済ませ、ケーキを食べながら映画「ワン・デイ 23年のラブストーリー」を見る。
自宅で書き物をする際、近頃好んで聴いていたプレイリストに、この映画のサントラが入っていたのだ。見知らぬ誰かが作ったプレイリストで、そこにたどり着いたのも「Her」のサントラを探していたからだったのだけど、
この映画の曲が流れるたびに手を止めタイトルを確認することが続いたので、本編も見てみようと思い立った。こういう動機で映画を見たのはおそらく初めてのことだと思う。

映画を見終わる頃には風がかなり強くなっていた。
窓がガタガタと揺れてうるさい。twitterを見ると「換気扇から風が吹き込んでくる」と書いている人がいたので見に行ってみたけれど、方角の具合もあるのか我が家の換気扇は落ち着いていた。
しかし私は落ち着かず、台所掃除をしてーーやるべきことは他にもいろいろあったのだけど、こんな夜はゾンビ映画を見るくらいしかしたくない、と思い再び机に向かってウォッチリストにいれていた「アイアムアヒーロー」を見はじめる。冒頭の、ドアポストを覗くシーンが猛烈に怖い。窓の外も怖い。時折風が窓ガラスにぶつかってくるような瞬間もあって、もし割れたら今晩はオープンエアで寝なきゃいけないんだよな、やだな、とか思いながら、ゾンビから逃げる大泉洋を見守る。0時をすぎる。

映画を中断して寝る準備をはじめたものの、うるさくて眠れる気がしない。不安になってスマホで窓ガラスの補強法などを検索し、気休めかもしれないが窓にガムテープを貼ってーーふたたび布団にもぐる。やっぱりうるさい。ので、久しぶりにタブレットを出して布団の中で「アイアムアヒーロー」の続きを見ることにした。後半は息もつかせぬ展開で、映画に集中することで外の台風のことを少し忘れることができたような気がする。

病院や学校や新幹線車内など、ゾンビ映画のクライマックスに「限られた空間」が使われるのは定番だ。「アイアムアヒーロー」のクライマックスもショッピングモールで、狭い空間とだだっぴろい空間が共存している感じが絶妙に不安を煽っていた。
窓ガラスが割れて、ゾンビが入ってくるところを想像する。
あまりの強風に建物ごと揺れているような気もしたけど、ゾンビよりはマシだ、と思いながらひたすら目を閉じた。

*1:秋元才加ちゃん