スパンコール

たまに、どこに着ていくあてもない、なんだか派手な服が欲しくなる。
普段はどちらかといえば着心地重視な服装をしているのだけど、時折どうしても欲しくなるそのような服は、どう考えても普段着には適さない。つい先日も花柄の刺繍が施された燕尾ジャケットと黒のスパンコールのパンツを比較して「スパンコールの方が普段づかいできるかな…?」まで考え、私の普段とはなんなのか自問した。週5で通勤電車に揉まれる会社員である。黒のスパンコールパンツを履く機会はほぼない。

思えば自分で洋服を買えるようになった頃からその傾向はあった。
高校生の頃、赤白黄色青など派手な色のストライプのベルボトムを買って、一度も着なかった。
大学生の頃は60~70年代の古着にはまり、派手な服を大量に買っていたけれど、まあ大学生なのでわりと着るチャンスはあった。でもビーズ刺繍が施された白のミニワンピースはさすがに普段着には厳しかった。
自分内古着ブームが終わっても、唐突に、「着る機会はないかもしれないけど/だからこそこの服が欲しい」はやってきた。
星柄のスカート、ピンクのヘビ柄ブーツ、紫のベルベットワンピース、マキシ丈のトレンチコート(めちゃくちゃ重い)etc。一番最近買ったこのカテゴリの服は、緑のサテンサロペットだ。

着る機会なんて1生に1度しかないかもしれないような服が欲しいとき、似合うか似合わないかはほとんど問題ではない。おそらく私は、その服を着る人物を想像し、それになる、もしくはその気配を家に持ち帰るために買うのだと思う。
そう考えていて、ふと、それこそドラァグレースにおける「リアルネス」じゃないか、と思った。
洋服は着る物であると同時に、それを着る人物を表す概念なのだ。残念ながら、私にはそれを手に入れても、着こなせずに終わることがしばしばあるのだけど、
だからこそ、それを実際に着こなして「なりたいになる」クィーンたちに憧れるのだと思う。

そして私は再びショッピングサイトを開き、黒のスパンコールパンツを眺めながら「ドラァグクィーンのイベントに行くときに着れるのでは?」と閃くのでした。