ローリング・サンダー航海日誌

私の大好きな「パリ・テキサス」に脚本家として参加するとともに、出演もし、男優としても活躍するサム・シェパードによる、ボブ・ディランのローリング・サンダー・レビューというツアーの記録。
そもそもシェパードはこのローリング・サンダー・レビューに伴い映画の脚本を書く為にディランから同行を要請される。

しかし冒頭でディランがシェパードに語った「関連性をもたせる必要は無い」という言葉の通り、この本に収録された98編は(明確には)リンクしていない。
しかし、ただディランという存在のみが、ツアーそのものの核であったように、読者は、サム・シェパードの目を通し、ディランという存在を感じ、ツアーを体験する為にページをめくってしまう。

あとがきによると、ローリング・サンダー・レビューは二期に分けて行われ、そのうちサム・シェパードが同行したのは第一期の約2か月間ということである。

私はこの本を読んで、シェパードの文章が写生から心象へと移行し、やがて混沌のはてに昇華する様を見た様な気がした。ボブ・ディランという強烈な存在と時代を感じながら、私には最後まで全体の印象を持つことが出来なかった。
そしてもしかしたら筆者自身もそうだったのではないかと思う。
この「特別」なツアーの全貌を、自身(シェパード)が記録するのではなく、体験した、ということが書かれたのがこの作品だと思う。

なんだか混乱しているけれど、再びあとがきの言葉を借りれば「98編の短編映画を見る」様な気持ちで読むのが良いような気がする。

特に印象に残ったシーンとして、ダンキンドーナツについての記述があった。ダンキンとはDUNK IN(浸す)という意味だったのだろうか?
そしてバエズのドレス姿、ジョニについての記述など、私も見てみたかったというシーンは数限りなくある。本当にすごいツアーだ。
また、この記録は後に「レナルド&クララ」という映画にまとめられているらしいけれど、私はまだ見ていない。是非見てみたいと思う。
血の轍
1988年からディランは「ネバーエンディングツアー」という名のツアーを始め、それは現在も続いている。ほんとうに特別な人だと思う。

ちなみに私が最も好きなディランのアルバムは「血の轍」。
丁度このローリング・サンダー・レビューが行われた1975年に発売されたものである。