ATOM/ラーメンズ

DVDボックス二本目。

ラーメンズ第12回公演「ATOM」 [VHS]
2002年12月25日~2003年1月13日、東京都と大阪で行われた第12回定期公演
【収録作品】
上下関係
新噺
ATOM
路上のギリジン
採集
ATOMより

もう助けてください!

 というくらいの勢い、破壊力、完成度。
ラーメンズ世界の魅力として、コント単位の世界だったのがいつのまにか舞台単位の世界へと広がっていることに気付かされる、という点があると思うのですが、この「ATOM」では前作「CHERRY BLOSSOM FRONT 345」からの勢いをそのまま受け継ぎ内包するかのような勢いがありました。果てにはパッケージデザインすら包み込み、こちらはやられっぱなし。
まず、小林さんの脚本でしばしば題材となる「あこがれる側あこがれられる側」の関係図を描いた「上下関係」。物語単位でなく、その関係性の妙というところにスポットを当てると、「cherry〜」のラスト、「蒲田の行進曲」と繋がっているようにも思えます。大阪公演のあとにがらりと内容が変わったらしいのですが、どう変わったのか気になる。
「新噺」もまた前回の公演で演じた「レストランそれぞれ」での技が研ぎすまされた感じ。実験的ながら完成された一本。特に小林さんの落語家っぷりおよびマイムの上手さに感動。さらに二人のかけあいの絶妙さに、笑いながらも耳をすまし、息をひそめて見てしまいました。大好きな作品です。
ATOM」は、独特のSF感と言葉や状況のおかしみに焦点があたっているラーメンズならではの一本。
「路上のギリジン」は片桐さんの独壇場。見つめる側→見つめられる側という構図が強調された演出が印象に残る。小林さんがトンベリ*1っぽい。
ATOMより」もまた素敵な話。その情景を見せてくれる演技に、なんだか昼下がりのその部屋を実際に見たことがあるような気分になる。そしてラストのシーンも、まるで自分もそれを見ているかのような気持ちにさせてくれた。ラーメンズは心地良い幕の引きかたが本当に上手い。

特に印象に残ったのは「採集」。ラーメンズのコントに近いものとして、星新一ショートショート藤子不二雄FのSF短編を前にも挙げたけれど、今回のATOMという公演でそれを考えてみると、「ATOM」は星新一風、「上下関係」は藤子不二雄Aのブラックユーモア短編、そしてこの「採集」は筒井康隆の短編小説のような世界観を感じた。念入りにプロットの練られた短編小説のようであり、見るものの感情にうったえかけてくる話。物語の構成もさることながら、小林さん演じる「一人きりになったときの妄想による行動」etcがとても面白い。なにげない人間の行動や感情の動きをここまで面白く切り取れることに感動。
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文庫版にまとめられている藤子不二雄Aブラックユーモア短篇集 (1) (中公文庫―コミック版)シリーズは、「笑うせぇるすまん」などのブラックユーモア作品を得意とするA氏の短編集。F氏のSF短編集の物凄いクオリティに比べると、若干むらがあるような気もしますが、とても面白い話が多いです。藤子不二雄両氏の短いページ数の中に練り込まれた物語を惜し気もなくまとめあげる、作品に対する真摯な態度には、その作品を読む度に驚かされる。そのような点でラーメンズには藤子不二雄漫画ととても近いものを感じます。すごい。

*1:FFにでてくるモンスター