いつかパラソルの下で/森絵都

いつかパラソルの下で

いつかパラソルの下で

わーい新刊だ、と思って気軽に読みはじめたので、ちょっと面喰らいました。
この作品は、「永遠の出口」につづく大人向けに書かれた作品ですが、ほんとに、完全に、大人向けです。いや、そもそも小説に大人向け子供向けという明確な仕切りをする必要はないと思うんですが、「DIVE!!」を手に取る感じで手に取ったらびっくりするよ、私はしたよ、という事です。念のため。
物語のあらすじを帯から引用すると、

病的なまでに潔癖で、傍迷惑なほどに厳格だった父。四十九日の法要が近づいたころ、私は父の生前の秘密を知ってしまう。

というもの。さらにつけくわえるなら、「父が浮気をしていたらしい、ということを知った兄妹3人が父親のルーツを探る」という物語です。
主人公が抱いている父親への感情には、同じく非常に変わり者な父親を持つ自分としてはいくつか共感出来る部分があって参った。ある一定の年齢以上になると、こんなふうに親を1人の人間として客観的見る瞬間っていうのは誰にでも訪れるのかもしれない。そして、それは得てして、なんだか少し切ないものだと思う。
読んでいる間中、なんとなく既視感を感じていたのだけど、それはたぶんちょっと前に読んだ角田光代さんの「庭の桜、隣の犬」に似た雰囲気があったからだと思う。文脈は全然異なるけれど、後半部分に「マイナスとマイナスをかけてなぜだかプラスになるように」という一文があって、それで思いだした。主人公が20代半ばのフリーターの女性だということでも似た雰囲気を感じたのかもしれない。
しかしP191で主人公が父の死についてようやく1つの感情を抱くに至る所、そして懐かしい風景のようなラストシーンでは、やはり森さんだなあと思ったりした。とても真摯な文章。
読み終えるのに意外に時間がかかったせいか、とても長い物語だったような気がする。(実際はそんなに長くない)「永遠の出口」が1人の少女の年代記であったように、この作品は1つの家族のクロニクルだなと思った。