- 作者: 貫井徳郎
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2002/01
- メディア: 単行本
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本作では、被害者遺族に焦点をあて、日本の法律の元、未成年や精神病などの理由により、刑を免れた、もしくは軽微な実刑のみでそれまでとかわらぬ生活を続ける加害者に、私刑を与えることの是非への葛藤が主題となっていました。
私は読んでいる間ずっと、この作品のタイトルを「殺人協奏曲」と間違えていたのですが、物語の流れる様は確かに協奏曲と言い表せる部分もあったような気がします。物語の主軸となる人物も少しづつスライドしていき、多くの語り手の抱いている深い哀しみや怒りが、貫井さんの確かな筆力で浮かび上がってくる。その真摯な描写ゆえに、私は彼らが抱く殺意に共感すら覚えてしまったのだけれど、しかし、だからといって報復として殺人を犯してしまえば自らもまた報復の対象となってしまう。
「だから、それの何が悪いってんだよ。あいつはおれを殺そうとしやがったんだ。おれが何をしようと、おれの勝手だろうが」p405
という台詞が合わせ鏡のように果てしない「連鎖」を象徴しているような気がした。
けれどその「正論」は本当の絶望を知る者には決して届かない。現実でも毎日のように事件がおこり、報道され、やがて忘れられていく。その中に、このように苦しみ続けている人たちがいるのだろうということを想像は出来ても、共感したような気持ちになっても、そこには深い溝があり、その向こう側を知ることはできないのだろう。その溝を目の当たりにした時、私は物語の終盤で武藤が環に語ったように、現実逃避ととられても仕方ない様な言葉しか吐くことができないと思う。
非常に考えさせられる作品だった。
物語の構成としては「慟哭」に似た部分があり、北村薫さんが「慟哭』に寄せた秀逸な帯文「書き振りは《練達》、読み終えてみれば《仰天》」という言葉を思いだした。
装幀は葛西薫さん。