九龍城探訪

九龍城探訪 魔窟で暮らす人々 - City of Darkness

九龍城探訪 魔窟で暮らす人々 - City of Darkness

ずっと欲しかった本をようやく購入。今月の贅沢品です。でもこの充実した内容で3500円はむしろ安いと思う。九龍城関係の本の中では1番気に入りました。こういうのが欲しかったんだー。嬉しい。
九龍城に感じる魅力を言葉で説明するのはむずかしいんだけど、この本の冒頭に掲載されている空撮写真を見て、成長し続けた生き物がその体の重みにたえかねてうずくまっているような佇まいに惹かれるとともに、その中にたくさんの人の生活があったのだという事実を知りたいと思ってしまうのはほとんど衝動だと思った。建物であり街である、そしてその内部は全て把握することなんて不可能なくらいに入り組んでいる。それだけでもう物語だ。
もちろん、そこにあったのは現実であり、様々な問題を孕んでいたことは良く知られていることだけれど、この本を読んで感じたのはむしろ退廃とはほど遠い、生命力だった。
商店の店主や家族できりもりされていた様々な工場、不動産や漢方の医師、幼稚園。たくさんのインタビューによって、生命力にあふれた九龍城が浮き彫りにされていく。ほぼ全てカラーで掲載されている写真の素晴らしいことといったら。その路地の先に何があるのか知りたくてたまらなくなる。
そして、最後のインタビューとして鳩ブリーダーの人にたどり着いたところで、視界が急に開ける。屋上の写真。行ったことも無いのに、なんだかすごく懐かしい風景に見える。九龍城に感じるのは、そういう魅力だ。
巻末には、インタビューした人がどの辺りに住んでいたのかわかるような地図もついているのが嬉しい。
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グレッグ・ジラードさんによる序文で、「九龍城が有名になってきたと感じたのは、SF作家ウィリアム・ギブスン」の作品に取り上げられていると知ったときだった。彼は小説『あいどる』でバーチャルに九龍城を描いた」とあったのでその『あいどる』も読みたくなった。