時代を切り開くまなざし/木村伊兵衛写真賞の30年1975-2005

川崎市市民ミュージアムにて。
写真には詳しくない私でも、木村伊兵衛写真賞を受賞された方の中には、好きな写真家の方が多いので、行こうと思ってた写真展。に、ようやく行ってきました。会期が長いので安心してたら、もう来週(6/19まで)で終わりとのこと。うっかりしてた。
ちょっと順路がわかりづらかったですが、受賞作を年代順に見れるのが良かったです。また、『近年、アルル写真祭で約30年ぶりに発表され話題となった』という説明書きがあった木村伊兵衛さんの作品「Paris 1954-1955 」も見れて良かった。以下感想メモ。
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藤原新也「逍遥游記」/第3回受賞
藤原さんの作品は文章も写真もとても好きだ。藤原さんの写真をみると、いつも「しっとりしている」と思う。受賞作である「逍遥遊記」の中の猫の写真なんて、水の中にいるみたいな気がする。
倉田精二「ストリート・フォトランダム 東京75-79」/第5回受賞
森山大道さんの写真と雰囲気がにてるな、と思ったらプロフィールのところに「写真塾森山大道教室に参加」とあった。一枚の写真から、なんというか人生みたいな生々しいものを感じる。好きな写真だと思った。そして1975年の池袋の空気というか風俗におどろく。30年なんてあっというまな気がするけど、いろいろ変わるんだな。いい顔で笑ってるおじさんがヒールのある靴はいてるもの。
渡辺兼人「既視の街」/第7回受賞
正方形のパネルの中に収められた風景は「既視の街」と名付けられていて、その語感がとてもいいと思った。風景の中に、アンバランスと言うか落差のあるものが収められているところが好きだ。特に豪華っぽい建物の裏が工事中のような砂利広場になっている写真が好きだったのだけど、あれはどこだったんだろう。
北島敬三「ニューヨーク」/第8回受賞
ミックとキースのこの写真はこの人の写真だったのかー!
宮本隆司「建築の黙示録」/第14回受賞
解体される過程にある建物の写真。日々谷映画劇場の写真は映画「オペラ座の怪人」の冒頭シーンみたいだなと思う。浅草松竹の写真で、外から差し込む光がきれいだ。幼い頃行ったことがある「つくば科学万博」の解体現場写真もあった。ここからあの20世紀への手紙が届いたんだ(正確には違うけど)と思って不思議な気分になる。
武田花「眠そうな町」/第15回受賞
だいすきな花さんの写真。花さんの写真を見ると、日向の匂いがする、と思う。あったかい。
今道子「EAT」/第16回受賞
ちょっとグロテスクな静物画のような「生物」写真。こういう写真もあるんだなーと思った。これ作るのも大変そうだ。
大西みつぐ「遠い夏」/第18回受賞
懐かしいけど、よくよく考えるとあれ変だったよねーというような風景。好き。ゲシュタルト崩壊、という言葉を思いだしたけどちょっと違う。
瀬戸正人「Living Room Tokyo 」「Silent mode」/第21回受賞
第19回に受賞された豊原康久さんの写真から、この瀬戸さんのものと、女性の「顔」の写真がつづき、昔友達の男の子に「女の人って1人でいると無表情な人多くない?」と言われたのを思いだした。後者の瀬戸さんの方がその印象に近いのではと思う。また、「Living Room Tokyo 」というシリーズは、ここまで続けて見て来た中で、演劇的なものが初めて出て来たので面白いなと印象に残った。
畠山直哉「LIME WORKS」/第22回受賞
工場写真。大好きな写真がたくさん。パイプたくさん。雪のつもった工場を斜め上くらいから俯瞰した写真で、ふといしいしんじさんの「プラネタリウムのふたご」を思いだした。
都築響一「珍日本紀行」/第23回受賞
都築さんの写真は写真表現の仕方がというところより、撮る対象を「見つけた」ことに重心があるような感じがする。それは編集者だからなのかな、とか、言われたりしてるんだろうか? 良く知らないけども。流れで見て行くとちょっと異質に感じる。
ホンマタカシ「TOKYO SUBURBIA 東京郊外」/第24回受賞
ここから会場が区切られていた。確かに明らかに雰囲気が変わる。それはホンマタカシさんの写真から、いきなり「今」の風景になったように感じるからかもしれない。「TOKYO SUBURBIA」は好きな写真集。なんというかヤングアダルト向けの小説のようだ。
長島有里枝「PASTIME PARADISE」/第26回受賞
長島さんの写真はなんか、小説を読んで、想像したことのある風景みたいな感じがする。見たことないけど見たことあるような。たくさん鳥が飛んでるのを塀に座って見ている写真が特に好きだ。
川内倫子「うたたね」「花火」/第27回受賞
川内倫子さんの写真独特の薄青がかった白はなんでこんなにきれいなんだろうなと思う。子どもの頃の視界みたい。花火からの写真があまりなくて残念。あの土手の上を子どもが走ってる写真がとても好きだったんだけど。
オノデラユキ「cameraChimera」/第28回受賞
この方の写真は初めて見たんですが、展示されてるものだけでも全く印象の違うものが多くあって、もっとみてみたいなと思った。ちらっと植田正治さんの写真を思い浮かべたけど多分写真集などで見たら全然違う印象だろうなとも思う。植田正治さんの砂丘の写真がとても好きなのでいつか鳥取に行ってみたい。
中野正貴「東京窓景」/第30回受賞
中野正貴さんの写真を視ると、なんだか風景が舞台みたいに見える。なのに人の匂いがする。作り物と現実の境目みたいだ、と思っていたらご本人もインタビューで「フィクションとノンフィクションの間を表現したい」とおっしゃっていて、表現しようと思ったものがちゃんと伝わるってすごいなと思った。とても好きな写真家さんです。
木村伊兵衛
パリ祭の写真も良いけれど、川開き−両国の写真に見入ってしまった。見たことあったかなこれ?すごくいい写真だ。花火の手前に、屋根にのぼって立ってる人と傘さしているひとがいる写真。この写真が載ってる本が欲しいけど、こういう時どうやって探せばいいんだろ。

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倉田精二さん、瀬戸正人さん、オノデラユキさんなど、新しく知った写真家の方に気になる人がたくさんいて嬉しい。また、写真集などで持っている写真でも、こうして大判のプリントで見ると全く印象が違うので行って良かったです。順路がわかりにくいことと、照明のせいか角度かえても見えにくい写真があったのが残念。第9回だけが該当作なしだったのですが、選考委員に安部公房さんの名前があったので特をした気分だった。