浅野いにおさんの作品を初めて読んだのは「素晴らしい世界」で、まったく知らない作家さんだったにも関わらず、それは書店で手に取ってすぐ買うことを決めていた。そして読み終えて、この作品を手に取ったのは幸運だったなと思った。「素晴らしい世界」は、いろんな人の日常の断片が、少しずつ繋がって世界になっていく、傑作短編集。「今」の雰囲気を過激さでなく、良心をもって描こうとする姿勢に、心を打たれた。うわーと思った。名曲「what a wonderful world」を思い浮かべる様な、そんな世界。
そして今日、ヴィレッジでこの新刊を見つけて、嬉しくなって購入した。
- 作者: 浅野いにお
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2005/06/17
- メディア: コミック
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どこかの家で/せんたくものがはためき
どこかの駅で/転校生がやってきて
どこかの道で/こねこがオートバイに/はねられる
そして この世はすべて/なにごともなし
おはよう/おはよう/おはよう
東京に朝がきましたよ/おはよう
【岡崎京子「東京は朝の7時」】
どんなに辛かったり、残酷だったり、退屈だったり、平凡だったりする日常でも、少し角度をかえてみて見ることで、どうにかそれをやりすごす。そんな視点から世界を描こうとする作家さんは久しぶりのような気がする。また、1つの物語の最後に次の物語と繋がる様なカットを入れる演出も、とても良い。ただ、全体的に読みやすい作品ばかりなので、もう少しひっかかるというか、印象に残るカットが入ったりすると良いのにって思う。でも、ともかく、この「ひかりのまち」が前作に引き続きとても良い作品だったので、ますますこれからが楽しみになった。
岡崎京子さんやよしもとよしともさんや松本太洋さんなどからの影響は顕著に伺えるけれど、それは視線を受け継いでいる人だということであり、浅野いにおさんはそれらの影響を糧にしながら、これからも良い作品を生み出してくれるのだろうなと思う。とくに比べられることの多いだろうよしもとよしともさん*1の作品と比較するなら、よしもとさんの作品が乾いているのに対し、浅野いにおさんの作品はどこか生々しさを残しているような気がする。そして、その生々しさはたぶん、作者の葛藤のあらわれでもあるのだろう。青いことや、正論や、きれいごとをどこかで照れながら、それでも俺はこれを言いたいんだ、というような。そしてその葛藤こそが作者の漫画に対する真摯な姿勢を象徴しているんじゃないかな。
ほんとうにこれからが楽しみな作家さんで、これまでの作品も何度も読み返して大事にしたいなと思う。浅野いにおさんの漫画を未読の方は素晴らしい世界 (1) (サンデーGXコミックス)からぜひ。
ところで、今のところ掲載されているのはサンデーGX(と私は見たことないけどQJでもやってるらしい)のようですが、スピリッツやIKKIの方が作風にはあっているような気もする。
*1:今日これを買ったヴィレッジでも横に並べられてた