愛すべき娘たち/よしながふみ

西洋骨董洋菓子店」がとても面白かったので、よしながさんの作品を読みたいなぁ、と思っていたのだけど、どれから手を付ければ良いのか解らず、本屋さんで悩んでいた時に手に取ったのがこの本でした。えー正直に言えば、まあそれは1番刺激が薄そうかなぁ…というだけの理由なんですが、これを手に取ってよかった。本当に、この「愛すべき娘たち」は素晴らしくて、それはよしながさんにしか描けない素晴らしさだと思ったので、もう、入手できるよしながさんの作品は全部読みたいと思った。

愛すべき娘たち (Jets comics)

愛すべき娘たち (Jets comics)

「愛すべき娘たち」は、ある母娘を中心に、描かれる連作短編集なのだけど、この中に描かれているのはすべて女性という存在についてなんだと思う。そして、物語はすべて内面からではなく、外側から優しく輪郭をなぞるように描かれている。例えば、物語の中心となる母娘のところへやってきた大橋健という青年や、友人。そういった心優しい人々の目から不器用な愛すべき女性達の姿が描かれる。
よしながさんの作品は、不思議だ。まだ2作しか読んだことがないのだけれど、どちらの作品にも共通して、よしながふみさんの漫画ではじめて知った魅力がある。それは静謐さというか、温度の低い繊細さのようなものと、独特のリズムだと思う。なんて、言葉にしてしまうとなんのことだかわからなくなってしまうのだけど。
この「愛すべき娘たち」で描かれる題材はともするとTVドラマなどで見たことがあるような設定だったりもする。例えば、母の再婚相手が娘と同じ年くらいの青年だった、という設定のドラマはすでに作られているし。けれど、この作品をTVドラマにしても、決してこの漫画の良さは描けないだろうなと思う。映画でも小説でもなくて、漫画ならではの、間のとりかたが、この作品の核になっていると思う。「西洋骨董洋菓子店」の時にも書いたけれど、同じ構図を重ねて行くなかでの人物の表情の変化、背景の描かれているコマから、背景の無い、人物を強調したコマへ移り変わる時のインパクト。その過程を何度も何度も読み返して、その間に起こったであろう人物の心情の変化を読み取ることこそが、よしながさんの漫画における最大の魅力のような気がする。そしてそれは登場人物の表情の豊かさに裏付けられたものなんだろう。第4話での年を取る毎に変わって行く牧村の表情、それからp35とラストページの笑顔の奥深さ。すごい。
物語はとても現実味のある題材で、ともすると女性の残酷さが浮き彫りになってしまいそうなものもある。しかし、それをそのまま描くのではなく、そこに、例えば「大橋健」という物語的なフィルターをかけ、人物の表情などから読者に想像させる余地を残しているからこそ、見えてくるリアルさもあるのだ、と思う。
吉野朔実さんの描く女性像にちょっと近いものを感じます。

余談ですが、男性がよしながふみさんの作品を最初に読むならこれがいいと思う。