ラッシュライフ/伊坂幸太郎

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

Lush Life」というジャズの名曲(私はコルトレーンのものしか聴いたことがないけど)と、エッシャーのだまし画をモチーフとして描かれた、伊坂幸太郎さんの群像ミステリ。だけどミステリだけじゃない。というのは伊坂さんの作品全てに言えることだと思う。
伊坂幸太郎さんといえば、いろんな人の、いろんな人生が交錯する様を描くことにこだわり続けてる作家さんのような気がしますが、この「ラッシュライフ」での視点は5つ。5つの視点が冒頭から入り交じりながらも、全ての主人公がその登場シーンから強く印象に残る。会話文ひとつとっても、全く違う人格がそこにあるので、安心して物語の流れに身を任せる事ができました。楽しかった。
また、ラッシュ、という言葉の「音」にも、lash/lush/rash/rushという意味の多様さを引き合いに出すところが、伊坂さんらしく気が利いています。少々伏線がくどく感じるところもあるのですが、畳み掛けるようなラストの秀逸さで一掃されてしまう。あー、最初っから仕掛けは目の前にあったのに! と思わず苦笑してしつつ、その構成力には素直に感服。でも、なんか悔しい。
しかも、この「ラッシュライフ」は単行本として2冊目でありながら、既にこの先の作品へと続く伏線も貼られていて、いったいどこまでが伊坂さんの風呂敷の中なんだろう、という楽しみも用意されてる。
それらの「仕掛け」については、池上冬樹さんのあとがき(文庫版)で丁寧に解説されているのですが、こういうのは、同時期に読み終えた人同士で話したりすると楽しそうだなーと思いました。なんとなく。

とりあえず既に刊行されている単行本のうち、7冊をやっと読み終えたので、いよいよ「死神の精度」を読もうと思います。そんでもう買った。たのしみ。