Touch the sound

ichinics2006-03-23
「音」に触れるとはどういうことだろう?
パーカッショニストエヴリン・グレニーを主人公としたドキュメンタリー作品であるこの映画は、そのことを表現するものだったと思う。エヴリンのことは、映画の公式サイトでこう紹介されています。

10代で(私たちが言うところの)聴覚を失い、プロフェッショナルなミュージシャンとしての活動を通じて「音」にこだわり続けてきた

エヴリンが失ったのは、あくまでも私たちが言うところの「聴覚」のことであり、映画で彼女を見ていると、彼女は誰よりも聴こえている、と思える。ただ、その聴覚を失うという体験は彼女の「音」に対する感受性を人一倍「敏感」にすることの一因であったにせよ、それが全てではない。彼女が聴いている音は、私たちの中にも響いているのだ。ちゃんと。そして、人は一人一人違う体を持っているのだから、当然聴こえ方も感じ方も異なる。自分だけの音があるのだと発見させられる。
そして「音」に触れるとはどういうことなのか?
それは物理的な「振動」のことでもあるけれど、彼女が伝えようとしているのはそれではないみたい。それが響くときに、触れる何か。
私が思ったのは、例えば拍手をするときの、手と手が触れあう前の、あの感じ。音の輪郭に触れるような、あの空気の形と、そこから自分の中に思い描かれる風景のようなものが、触れる、ということに近いかなと思いました。うまく言えないけど。
そして、聴くことと音を発することは裏表で、どちら側にも同時に存在できるような気がした。
とにかく、映画の全編を通して、エヴリンの楽しそうな様子が印象に残りました。それから、フレッド・フリスさんとともにCDの録音をしている場である工場跡での演奏が、気持ち良かったです。
映画館を出てしばらくは、イヤホンを耳に入れるより、町の音を聞きたいと思ってしまう映画でした。(でも駅前まで出るとうるさくて駄目だった)
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ちなみにこの映画のことは全く知らなかったのですが、makisukeさんの感想(http://d.hatena.ne.jp/./makisuke/20060312#p1)を読んで興味を持ったので見にいってきました。行って良かったです。感謝。
公式サイト → http://www.touchthesound.jp/