「二〇〇二年のスロウ・ボート」/古川日出男

ichinics2006-03-24
ISBN:4167679744
買った時に「トリビュート村上春樹」シリーズの中の一作だ、と気付いて、その発案者が古川さんだった、ということがちょっと意外だったのですけど*1、とりあえず「中国行きのスロウ・ボートRMX」であるところのこの作品は、とても面白かった。あとがきを読むとRMXってそういうことか、と腑に落ちます。が、読んでいる間はトリビュートであることを忘れていた。でもまあ、強いて言えば「国境の南、太陽の西」の匂いがしないでもない。
* * *
さて、これは主人公(名前はまだない/たぶん/でもあえてつけるなら「僕」だ/だってこれはトリビュート村上春樹なのだから)が、「東京」から脱出を試み、失敗し、その負け続けた「歴史」を越境するまでの物語だ。
正直、第一艘(スロウ・ボートだけに)を読みはじめた段階では、この本にはのれそうにないなという気がしていた。文章のリズムが捉えられない。でも徐々に、しかし確実にアップビートになるそのリズムに、中盤ではもうすっかり踊らされていた。このリズムを、もしかして意図的に作り出してるならすごい、と思うけど、この本に関してはそれは違うかなという気もしている。私が、本を読む際にリズムを気にし過ぎるたちだというだけかも。
ともかく、この物語は、その内部を精密に描くことで、その外へと至る道を開拓する物語だ、と私には読めた。そして、そのディテールがとても面白い、エンタテインメントになっているところが素晴らしい。その「ディテール」の中に一つ、とても興味深いものがあったのでそれは以下に。
そして断片は集められ、ラスト・シーンはいかようにも読むことのできる(と私は思う)味わい深いものになっているのだけど、ふと、ノーテボーム「これから話す物語」を思い出した。

これから話す物語 (新潮・現代世界の文学)

これから話す物語 (新潮・現代世界の文学)

*1:それ気付いたの時の日記 → http://d.hatena.ne.jp/ichinics/20060203/p1