「殻都市の夢」/鬼頭莫宏

殻都市の夢 (F×comics)

殻都市の夢 (F×comics)

コップを伏せたような形の「殻」を積み上げて増殖していく都市「殻都市」を舞台にして描かれる短編7作品。女管理官とすこし間の抜けた(でもおいしいところをもっていく)男性管理官の2人組を中心にお話が進む。
入り組んだ建造物や架空都市を舞台にしたお話は個人的に大好きなジャンルなので面白かったのですが、この短編集に物足りなさを感じるとすれば、その都市の設定があまり細かくなされていないという点にあると思う。あとがきには、当初シリーズになるつもりではなかった、と書かれていたので、それは仕方ないかなとも思う。
しかし、この物語の核はむしろ、「都市」にあるのではなく、やはりこれまでの鬼頭さんの作品同様「少女」にあるのだろう。
四季賞クロニクルで「ヴァンデミエールの右手」を読んだ際にも思ったことだけど、鬼頭さんの描く少女像に共通しているのは「無垢と意志の強さ」の共存だと思う。そして、この「殻都市の夢」では、例えば短編集「残暑」に収録されている「ポチの場所」を読んで感じた「少年が少女に対して抱いてる、わからなさ、および理想」を、打ち壊すような形(それは否定ではないけれど)で、少女が描かれている。例えば無垢であるはずの振る舞いが、実は強い意志に基づいている、もしくは、そこには意図しているだろう何かなどない。などという「裏切り」の展開が多くみられるのだけど、基本的には同じことをテーマにしていても、ひとつひとつの作品の色合いがきちんと輪郭を持っているところがさすがだと思う。
ただ惜しむらくは都市の設定だ。ここでの物語を、もっといろいろな話で読みたかったと思う。でもそれは鬼頭さんの目指すものではないのかもしれない。