Elephant Shoe/ARAB STRAP

なんだかやたらと男の子たちに人気があるけれど、女の子にはいまいち人気ない、というものはいくつかあって(もちろん逆も)、性差というものが具体的にどのようなものなのか私にはよく分からないのだけど、例えば女の子特有の楽しみや悲しみがあるのなら、男の子特有の拘泥や葛藤というものもやはりあるのだし、たぶん、それらの作品はそういった「琴線」に触れるのだろうと思う。
例えば『マイ・プライベート・アイダホ』という映画が私の思うそれに近い。リヴァー・フェニックスのファンだった私は、公開当時、劇場へ見に行ったものの、そこで何が語られているのか、どう受け取ればいいのか戸惑うばかりで、記憶に残っているのはあのラストシーンの唐突さだけだった。ただ、以降のガス・ヴァン・サント監督の映画には好きな作品が多いので、今見直してみればまた違った感想を持つのかもしれない。しかし、驚いたのはそれから数年後、大学に入学して、仲良くなった男の子たちの多くが、あの作品を特別に思っているということを知った時だった。「女の子にはわかんないかもね」と彼らは口を揃えて言った。
そしてこの「Elephant Shoe」も、そういった作品の一つだった。このアルバムが発売された1999年当時、私はレコード店でアルバイトをしていた。同僚の男性たちが絶賛するこのアルバムを、私も「いいな」とは思ったものの、何がそんなに違うのか、よくわからないでいた。歌詞を読んでも、なんのことやらだった。
でも、久しぶりにこのアルバムを聞いて、わかっていなかったのは私のほうだったんだと思った。ここにある憂鬱と倦怠と緩やかに首を締められるような心地よさは、例えばデビュー当時のブライト・アイズや、トム・マクレーの世界観とも重なる部分がある。しかし、このアルバムが、それらの作品とは一線を画し、男性(私の周囲の)にとって特別なものとして感じられた理由と、それが私に届かなかった理由は、この疲労の中にある怒りや、捻くれた攻撃性のようなものにあるのかもしれない。そしてそれは、「健康だ」といわれていた当時の私が、もういないということを思い出させる。なんてね。

今、俺の金曜日は色々使い道があるのさ/何が起きたか忘れて最低な言い訳をでっちあげる/武器もたいした動機もいらない/俺のプレイステーションに/ちょっとビールがこぼれてればいいのさ
"The Drinking Eye"

「Elephant Shoe」は、エイダン・モファット&マルコム・ミドゥルトンによるユニット・バンド、アラブ・ストラップの3rdアルバム。「露悪趣味」と評されることの多かった彼等が生み出した柔らかな夢のような音楽。ミニマルなリズムトラックと光るギターの色。そしてエイダンの声は濃密な霧を思わせる。
日に焼けたコットンのカーテン。そこから差し込む光と、部屋を舞う塵。枕に顔を埋め、目を覚ますのを待っている。耳の奥に聞こえてくる心臓の音。ラストトラック#11から#1に戻る時に、そんな光景が見えるように感じる。

Elephant Shoe

Elephant Shoe