ぶらんこ乗り/いしいしんじ

ぶらんこ乗り

ぶらんこ乗り

いしいしんじさんの、2000年に発表された初めての長編小説。
久しぶりに読み返したのだけど、ああそうだ、いしいさんの文章を読むときに感じるのは、この壁みたいなものだったと、やはり久しぶりに感じたので、それはいしいさんの作品ならではの感触なのだろう。
『ぶらんこ乗り』は姉と弟を取り巻く世界のお話。大切に、誇りに思っていた弟のいる世界が、自分のいる世界と違っていってしまう過程を、弟の書いたお話を辿りながらお姉さんが回想するお話。違ってしまう、その決定的な瞬間については、初めて読んだときと同じように、今回もぞっとしたので、具体的には書かないでおく。できればあらすじとか読まずに触れて、驚きを感じることが、この物語を読む上では必要なことなんじゃないかな。
いしいさんの描く物語は、やさしい、と思う。しかし、例えば子供の頃に読んだ絵本の中にあった忘れられない何かのような、そこはかとない「こわさ」の影がしっかりとあって、独特の印象をのこす。そのこわさは、ひんやりとした壁のようでいて、力強い。ストーリーに、というのではなく、そこには何か私に見える世界とは別のものが息づいている。そんな気配がある。いしいしんじ作品を、宮沢賢治という人の物語と重ねたくなるのは、きっと、その辺りに理由があるのだと思う。
私はこの物語が、こわい。ただ、それは遠ざけたいということとは違って、あの、向こう側に引っ張られる感じを、それが引き止められない感じを、思い出してしまうからなんだろう。
この弟のことはとても好きだ。彼と一緒にぶらんこに乗ってみたかった。犬の名前もすきだ。

私も幼い頃、庭の木にぶらんこを作ろうとしたことがあった。その木の枝を、樹木医である叔父のすすめによりつい先日切り落としたのだけど、そこにはなんとまだ作りかけのぶらんこの残骸が残されていた。申し訳ないことをした。