春・音の光 〜川(リバー)スロバキア編〜

監督/演出:佐々木昭一郎
イタリア編、スペイン編とづづいた「川(リバー)」シリーズの3作目で、先日見た「四季・ユートピアノ」の延長線上にある物語。中尾幸世さん演じるピアノ調律師のA子がスロバキアの人々とのふれあいを通して音を見つけていきます。「音の日記」として綴られる台詞が、きらきらしてる。
「四季・ユートピアノ」と同じく、ここでも具体的な「物語」が描かれるわけではない。ほとんどの役柄は現地の人(たぶん役者ではない)によって演じられるのだけど、中尾幸世さんを含むスタッフと彼等との関わりがそこにちゃんとあるのだということが、伝わってくるように思う。フィクションであり、ドキュメントであるということの面白さが持つ力というのは、横で見ていた母親が最初は「ねえ、これ何? どういうことなの?」とうるさく言っていたのに、しまいにはにこやかに「音楽っていいわねぇー」とためいきをついていたことなんかにも表れると思う。物語にとって、それがほんとか嘘かなんてことはどうでもいい。ほんとを見るか、嘘を見るか、そのどちらかでいいのだと思う。
このドラマに流れる空気は懐かしく、ついつい顔がほころんでしまう。いつのまにか音に耳をすましている。音は人と人とをつなぐ。例えば歌として、踊りとして、記憶として。そんなことを考えながら見た。特に最初の方にあった、ピアノの連弾の場面が好きだ。音が重なる感じにぐっときて、久しぶりにピアノに触りたくなった。もう弾けないだろうけど。
ところで、この作品ではチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」が印象的な使われ方をしている。CMのイメージがこびりついていて好きじゃなかったのに、やっとこの曲はこんなに素直な、美しい曲だったんだなぁと思えた。