「ヘブン…」/鈴木志保

「世界の果てのゴミ捨て場」に住んでいる女の子と、ゴミ捨て場に新しくやってくる様々なものたちの物語。
世界の果てのゴミ捨て場での日々は、静かで、ひんやりとして、でも日だまりのようでもある。その安心は、自らに価値を見いださないことへの赦しなのかもしれない。

ああ、いいなあ紙キレ
とるにたらない
燃やしたら消えちゃう
あたしたち
たかがそんなものなのね…

傷つけるものなんてなにもない、私だけの世界。行進し続ける将軍とカモミールのように、その世界は円環を描き、いつまでも終わらないように思える。
でも、それが終わる瞬間は、ただ目を開くことだったり、する。でもそれはぜんぜんさみしことじゃなくって、と思えるバイバイの笑顔が、よかった。そして、誰かの記憶の墓場としてあった「天国」のようなその場所は、通り抜けた後も、自分の一部としてあるのかもしれない、なんて考えた。

ヘブン…

ヘブン…

しかし鈴木志保さんが月刊プリンセスで連載しているなんて、全然知らなかった。偶然書店で見つけたんだけど、『船を建てる』の人だって最初わかんなかった*1。久しぶりに純度の高い「少女漫画」を読んだような気がして、その感覚は少しくすぐったい。少女から遠くなってしまった私には、もうその世界を外側からしか見ることができないのかもなと思うし、そこに引き寄せられそうになることは、少しこわかったりもする。でも、鈴木志保さんの描く世界は、やっぱり、やさしい。読んでいると、時々泣きそうになったりもするのだけど、そんなのを笑うような自意識も、どうでもよくなるような開放感がある。この人の描く言葉、構図は独特で、漫画というよりは絵のついた詩のようだ。

「ヘブン…」を読み終えて最初に思い出したのがカポーティの『遠い声 遠い部屋』だった。少年も、少女も、中に詰まっている成分が違うだけなんじゃないかなぁ、とか。

キラキラと銀色に輝きながら、その女は彼に向かって手招きをした、彼は行かねばならないことを知っていた――恐れず、ためらわず、彼はただ庭の端でちょっと立ち止まっただけだった。彼はふとそこで、何か置き忘れてきたように足をとめ、茜色の消えた垂れ下がりつつある青さを、後にのこしてきた少年の姿を、もう一度振り返って見るのだった。
『遠い声 遠い部屋』

*1:まあそれは久しぶりだったのと、主人公がアシカじゃないからだと思うけど…