THE ERASER/THOM YORKE

5月11日に発表され、7月11日に全世界同時発売となる Radiohead のフロントマン、トム・ヨークのソロアルバム。(日本版/asin:B000FZEZPQ の発売は7月5日)

The Eraser

The Eraser

正直、それほど期待してはいなかった。ちょっと聞くのがこわいような気もしていた。しかし一旦聞いてみると、それはやはり好きな音で、これを出そうとしたトムの気持ちが、なんとなく想像できるような気がした。
『The Eraser』は Radiohead のアルバムといっても違和感のない作品だ。ただ、新作ってイメージではなく、『KID A』から『Amnesiac』へと続いた時期のアウトテイクのような印象で、それはプロデュースにナイジェル・ゴッドリッチを起用していることからも明確に意図されたことなのだろう。むしろ、当時トムが作曲/もしくはイメージしていたものの中で、バンドに向かないという理由で録音されなかったものを、ソロ作品として完成させたのがこのアルバムであるように感じる。実際の作曲時期などはわからないけれど、あの連作で「やりのこしたこと」があったのだろうなというのは、当時の混沌を思い出せばなんとなく想像がつく。そしてそれは「ソロ名義」でしか消化できないというのが、今の Radiohead の現状であり、誠意なのだろう。
『Hail to the Thief』で Radiohead は既に新しい扉へと向かっている。そして彼らは常に革新的であらなくてはならないという宿命のようなものを背負ったバンドでもある。(でもそんなの、ほんとにあるんだろうか?)
しかしこの『THE ERASER』にある、コード進行の独特さ(特にベースラインが特徴的)、ヴォーカルのスタイル、音の使い方、そういったもの全て、Radiohead のオリジナリティなのだ。それがほんの少しさみしくもあり、でもやっぱり、私はこの音と声が好きなんだなと思う。
「ピラミッド・ソング」を思わせるピアノが印象的な#1「The Eraser」にはジョニーが参加している。マットな打ち込みが気持ち良い#6「Atoms For Peace」ではトムの歌声がほんのりあたたかく、舞い上がるようなファルセットにぐっとくる。この人の声はやっぱり特別だ。

そして、このアルバムをきいて、ますます Radiohead の 新作が楽しみになった。これを「レディオヘッドとしてのエレクトロニカへの未練をリセットする」作品だと見るなら、そこにはやはり「動物化した音」の次の展開があるんじゃないかって、期待してしまうから。