村上かつら短編集1

村上かつら短編集 1 (ビッグコミックス)

村上かつら短編集 1 (ビッグコミックス)

村上かつらの漫画は、たぶんきっと、性別によって大きく感想がかわる。性差という、深くて暗くて下らない溝のようなものを改めて確認するのは、なんとなくうしろめたいような楽しさがあって、でも最後にはなんとなく悲しいような気分になるんだった。

天使の噛み傷

「据え膳、食い損ねて本望なり」と思っていた主人公が、鳶に油揚さらわれて逆切れするお話。なんて説明するのは少々悪趣味だけど、これは愛か欲望かで逡巡する主人公の見る夢の中での台詞が良い。

飯田君が「愛」って呼んでるもの、その中身になら、あたしは喜んで応じてあげる。/たとえそれがエゴでも、恥ずかしい欲望でも傲慢でも、容れものの陳腐さに比べればずっといとおしい。……ムキ出しでおいでよ。

かさぶた

うまいなぁ、と思う。そしてこの話はきっと、女性向けだろうなとも思う。「好きじゃなくなってはじめてできることがある」こわいねー。でも逆にいえば、好きだからできないことがあるってことなんだよな。

99夏あたし15歳

少女漫画だ! これは雑誌掲載時にもちょっと泣いたのを覚えてる。友情からは報われないですよ。

さよなら奇跡

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」と似た構図の、町で一番の美人のお話なのだけど、これはハッピーエンド版かもしれない。

はるの/よるの/ようだ

これも雑誌掲載時を覚えていた。
ちょっとだけ優しい目にあいたい、と思って、自分のことを好きだったという女の子に再会する主人公は、しかし彼女が相変わらずちっとも美しくないことに失望し、食事中もずっと別のことを考えている。そんな残酷な状況で、最初から「枠外」の絶望的な恋に決着をつける彼女は確かに格好良いんだけども、たぶんラストシーン、主人公と女の子のどちらに感情移入しているかによってまったく感想はかわるだろうと思う。私は「お前にいわれたってうれしくねー!」と思いましたよ。

よのなかには、どうにもならないことは確かにあって/僕たちのリアルはいつもどこか残酷なのだ