川と火花

ばちばちと音をたてて地下鉄が走る。この線は、地下鉄なのに、線路にではなく、天井に電線があるのだとそれで気付いて、そうか、地上から乗り入れる線だからか、と納得する。火花が散る。
会社の近くには川がある。深くて黒くて流れていないので、もしかして水じゃないのかもしれないし、その黒さは、川の上を通る高速道路の影なのかもしれない。私はいつもその前を通り過ぎて、少し遠回りをして会社へたどり着く。意識してるつもりもないのに、気になるあの暗さの存在は、今のところあの町を思い浮かべるたびにまとわりつく暗さでもあって、昨日みたいに、雨が吹いてるような白くぼやけた景色の中でも、じっとしたまま、覗き込まなければ見えないような奥底に、暗いままで、ある。
朝方は眠そうな顔の人が行き交い、昼時になると人で溢れ、夕刻には早足の人が駅に流れているけれど、ほとんど声の聞こえないこの町で、もっとも大きな気配を吐き出しているのはこの川かもしれない。
帰りも少し遠回りをして、川のそばを歩く。足がどんどん軽くなっていくのにあわせて、いろんなことを忘れる。そしてまた火花が散るのを見て、そうか、これから冬か、と思う。