父親たちの星条旗

監督:クリント・イーストウッド

太平洋戦争末期、日米両軍にとって重要な拠点であった硫黄島を巡る戦いは、当初の予想を上回る長く、激しい戦いとなった。その「硫黄島の戦い」をモチーフに描かれる二部作のうち、米軍側の視点で描かれた第一部がこの「父親たちの星条旗」。第二部は9日に公開される。

物語の中心となるのは、あの有名な、硫黄島で撮影された旗をたてる兵士たちの姿が写された写真だ。
その写真が新聞に掲載されたのは、長引く戦争にアメリカ国民の感情が離れかけていた頃のことだった。そして、この写真は国民感情を勝利へ引き戻す効果があるとして、その写真に写っていた兵士たちを英雄に祭り上げ、戦時国際キャンペーンの広告塔として全国行脚させることになる。
映画は、その商業的なお祭り騒ぎと、戦場とを、そのコントラストを焼きつけるかのように、何度も繰り返し行き来する。どちらも馬鹿げている。そして、対極にあるものは、そのようにして、よく似ていると思う。
戦場の描写は、ものすごい迫力の、リアルなものだったけれど、映画の中でも語られているように、戦場へ行ったことのないものには、やはり想像もつかない世界だ。映像で見せられても、それはあまりにも遠い。
そして、当時のアメリカ国民にとっても、戦争は遠かったのではないかと思う。例えば「太陽」で描かれていた昭和天皇のように、お互いに遠いところにいて、異なる現実を見ている。あるのはただ、英雄や国という実体を伴わない言葉/物語だけだ。ただ、それは人に役割を与えるものであり、この映画は、それに巻き込まれた人たちの物語なのかもしれないと思ったりした。

大作ではあるものの、派手さはなく、反戦を掲げるのでもなく、泣かせるのでもなく、ただ善悪の分け隔てなく描くことを常に意識しているかのような、ストイックさを感じさせる作品だった。根底にある監督の主張がぶれないからこそ、作品も力強いのだろうと思う。尊敬する。