yom yom/ヴォネガット/キヴォーキアン先生

ichinics2006-12-16
新潮社から(新潮文庫から、となってる)創刊された文芸誌の第一号を読んでいます。赤い表紙も装幀もかわいくて、そそられる。ラインナップも適度に広い層にうけそうだし、何より軽いのがいいです。
最初に読んだのはヴォネガットの「キヴァーキアン先生、あなたに神のお恵みを」。翻訳を担当された浅倉久志さんの解説もついていて、気が利いている。
内容はヴォネガットが青いトンネルをくぐって天国までいって、インタビューを行うというもの。ヒトラーシェイクスピアアイザック・アシモフなどの著名人からヴォネガット自身の曾祖父や叔父さんまで。

アレックス叔父が人間たちに対していだいていた最大の不満は、彼らがめったにいま自分は幸福だと気づかないことだった。
アレックス叔父その人は、いい季節がめぐってくると、それを認めることにやぶさかでなかった。夏の日にリンゴの木陰でレモネードを飲んでいるとき、アレックス叔父はよく会話を中断してこういったものだ。「これがすてきでなくて、ほかになにがある?」
「キヴァーキアン先生、あなたに神のお恵みを」/カート・ヴォネガット

こういう一文にはすぐぐっときちゃうな。これがすてきでなくて、ほかになにがある?
さて、解説によると、このインタビューは「ニューヨーク市の公共ラジオ曲WNYCから90秒間のつなぎ番組として放送された台本にヴォネガットが加筆したもの」である小冊子に収録されていて、今回の翻訳はその短縮版とのこと。
そしてこの題名に掲げられているキヴォーキアン先生とは、実在する人物の名であるそうです。
ミシガン州の医師、ジャック・キヴォーキアンは「終末期患者の苦しみを見かねて、尊厳死の観点から患者が自分で操作して自殺できる世界初の装置「マーシトロン」を開発した人物」だそうです。最初にその装置を使用し自殺した患者が出たときには殺人罪で告発され、ミシガン州には自殺幇助を罰する法律がないことから、無罪を勝ち取った。しかし。

一九九八年、マーシトロンの操作もできない筋萎縮性側索硬化症の末期患者から自殺幇助を求められたキヴォーキアン医師は、その依頼を断るに忍びず、ある決意のもとに、薬物を使って安楽死を実施するだけでなく、その現場をビデオにおさめて、CBCテレビから全米に放送したのです。その結果、ついに彼は第二級殺人罪と統制薬品使用の罪で、ミシガン州裁判所から実刑判決を受けました。
彼の著書『死を処方する』は九九年に青土社から翻訳がでています。
「青いトンネルをくぐって」/浅倉久志

ここ(http://cellbank.nibio.go.jp/information/ethics/refhoshino/hoshino0097.htm)などにより詳しい話がのっています。少し検索してみたところ、『死を処方する』にはマーシトロンの話はあまりでてこないみたいですが、キヴォーキアン医師に興味があるので読んでみます。わりと最近の話なのに全然知らなかった。

死を処方する

死を処方する