アルゼンチンババア/よしもとばなな

アルゼンチンババア (幻冬舎文庫)

アルゼンチンババア (幻冬舎文庫)

ずっとこの本は小説でなくてエッセイだと思い込んで手をつけてなかったんだけど、映画化される、と聞いて、読んでみた。(映画のHP → http://www.arubaba.com/
この小説の主人公は、とてもしっかりしていて、まともだ。彼女の語る言葉には、嘘がなくて気持ちいい。
物語は母親が亡くなって、のちの父親の恋とそれを見ている主人公を描いている。しして、だんだんと、その主人公の中に、何というか、あたたかいものがしみてほぐれていくのがわかる。

アルゼンチンビルの中には、なにひとつ「なくなってしまったもの」がないから、時間が人の頭の中の力によってすっかり止まってしまっているから、そこに流れている時間は特別なもので、決して過去と現在を分けて流れてはいない、だから、そういう夢を見ることが許されるのだ、と私は思った。/p50-51

アルゼンチンビルの中の描写は、ちょっと強烈なにおいにつつまれている。人間のあぶら、とか、ねこのおしっこ、とか、そういうにおい。でもそれは生命のにおいでもあって、それもぜんぶ、留まっている、ということが重要なのだろう。
あらすじよりも、そのアルゼンチンビルの佇まいが印象に残る本だった。日だまりの中に思い出を見るときの感じに、似ている。