SPEEDBOY!/舞城王太郎

SPEEDBOY! (講談社BOX)

SPEEDBOY! (講談社BOX)

久々の舞城王太郎。読んだ。一気に読んで、なんか胸がいっぱいになった。はやく、この気持ちを記録したいと思うけど、追い付けなそうで日和る。でもこれは大事な話だ。例えば気持ちが重くて、それを捨ててくことでどんどん軽く、浮かんでいけるような気がして、でも足もとが底なしなあの感じと、ここで描かれる走ることは似てる。鬣を持つ主人公、成雄は走るのがすごく速い。だってマッハだ。そしてどんどん気持ちが抜けていく。考えることが、限界を生むから。気持ちを加減する。

気持ちを加減したければその対象について考える時間を減らせばいい。そう結論づけたじゃないか。どうしてもう一度同じ設問をするんだ?
それはもちろん自分の出した答えに納得してないからだ。/p119

でも、それだけじゃない。いいほうだけじゃない。「僕は冷たい(略)僕は人のことをどうでもいいと思えるような人間なんだ/p135-136」それもほんとうだ。そして逡巡を切り捨てることで、速くなる。成雄はスピードを愛している。けど、同時に、よくなりたいとも思う。好きな子のために。どっちが大事なのか自問に答えはでない。

自問にはっきりした答が出ないのも当然だ。
それを訊いてる自分にも答えようとしてる自分にも、いろんな自分といろんな他人がそれぞれいるのだ。/p198

その答えは、あんまりにも希望に満ちあふれていて、私はつい、目を逸らしたくなる。だからもしかしたら、第六章のエンドが私にとってのエンドかもしれないけど、それはきっと、いつでも組み替えることができる。と思う。だってこのお話には、過去が複数用意されている(たぶん「獅見朋成雄」もその中にいる)。『九十九十九』以降、お得意のループだ。でも、時間軸が複数あっても、物語はものすごい勢いで一か所に集約されていって、現れるべきところで、現れるべき過去がちゃんと描かれる。そう思える。それが成雄の強さでもある。彼は軽々と超えてった。
彼は少し、黒須太一に似ていると思う。
以下余談

舞城さんは擬音の達人だ

……と、暑苦しい感想を書いたそばから台無しだけど、この場面読んでたらつい。

長谷川は腕を左右に広げている!僕はびっくりする。腕を振らなくてもそんなふうに速く走れるのか!/p71


ビッキュウゥウウン!