ぼくは、おんなのこ/志村貴子

ぼくは、おんなのこ (Beam comix)

ぼくは、おんなのこ (Beam comix)

はじめて「敷居の住人」を読んだ時には、志村さんの漫画のテンポに少し戸惑ったりもしたんだけど、Fで「青い花」を連載で読みつづけるうちに、なんとなくなじんできたような気がする。
さらりと読めるのに印象に残るというか、特に大仰なメッセージとかがあるわけじゃないけど、ひっかかるコマがあったりするこの感じ。とっつきにくい作風ではないんだけど、この戸惑いは、例えば「ぼくはおんなのこ」に集められている短編を読むと、あーこれだよね、と思う。
あれ、ここで終わるの? って急に放り出されるときの、ふわっという感じ。でもそれがいいんだな。
表題作の「ぼくはおんなのこ」は、ある日突然、男は女に、女は男になってしまった、という世界のお話。インパクトのある設定だけど、でもその設定自体は揺るぐことなくただ事実としてあって、でもだからこそラストが気持ちいいものに感じられる。
「楽園に行こう」もそう。中学校に教育実習生としていっている主人公が、中学生とイロコイ沙汰な話で、その設定時代に引力があるし、なんか面倒に巻き込まれそうな予感もあるのに、話の軸はよそにある。で、その軸がだんだんとずれていきながら終わってしまうんだけど、余韻はやっぱり気持ちいい。
で、最後まで読んでいくと、この気持ち良さはぜんぶ、自己肯定であるなと思いあたるわけですが、でもね、そのささやかさとか、嘘のなさとかに、なんかこうぐっとくるものがある。
美しい母、平凡な父の間に生まれた主人公の結婚を描いた「少年の娘」でも、母の美しさを真ん中に、軸は少しずつずれていく。そして主人公の肯定は、何も否定しないまま、やっぱり肯定にたどり着く。別に何がかわったわけでもないんだけど、その過程には説得力があって、私はやっぱりぐっときてしまうのだった。

そういえば、この漫画が出た頃「最近出た、白い表紙に人が立ってる表紙のやつが面白かった」といわれて書店にいったら、戸田誠二さんの「生きるススメ」と並んでて、どっちだよ、と思ったんでした。そしてどっちもよかった。
敷居の住人」感想(http://d.hatena.ne.jp/ichinics/20050919/p1