- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/12
- メディア: 単行本
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「エスケイプ」の主人公は元左翼の活動家。活動をやめる決心をして、これから旅立つぜ、というところから物語がはじまる。ほとんど主人公の一人語りで続いていく文章はテンポよく、小気味よくアジるその感じはどこか、theピーズの音楽に似ている。『サマー記念日』あたり。絲山さんはほんとにピーズが好きなんだなぁと思う作品で、それがなんか嬉しい。
でも。そういう楽しみを抜きにしても、これはすごく、力強い小説だった。「エスケイプ」における「アブセント」の存在がわかるところなんか、ぞくぞくするね。設定にっていうんじゃなくて、展開の巧みさというか、説得力みたいなものに。
子供はいいよ。子供はきもち悪くないからな。
おれには女も男もどっちもきもちが悪い。ま、おれ自身も多少、きもち悪いし、ね。
なんで大人ってドライでソリッドじゃないのかな。なんで生なんだろう。なんでやわらかくてぬるついてくさいのだろう。肉体も精神もそうだ。そういうことを考えるとおれは耐えられないきもちになる。p75
そうだよそのとおり。ぐんにゃりって、耐えられないきもちになる。でも、
悪いな、おれは必死だよ。でも必死って祈ることに少しはにてないか。/p100
泣かせんなよなーと思って読み終えた「エスケイプ」と、「アブセント」のラストは、裏表になっていて、そのことにもまたぐっとくる。心強い小説でした。