『決断者』

イーガンはすごい、なんてことはもう自明なんだと思いますが、それでも「すごい」と言いたくなるすごさ。今、イーガンの「ひとりっ子」(asin:415011594X)を、「ふたりの距離」まで読んだところなんですが、最近私が考えてたことに直結していてめちゃくちゃ楽しいです。ぞくぞくする。
詳しい感想は読了後に書くとして、今日はその中の短編「決断者」について。
「決断者」は、あるアイディアを、小説の形で分かりやすく解説したものだけれど、このようなアイディアを説明するのに、これほど分かりやすい解説を読んだことはないとも思った。

主人公が盗んだ眼帯[パッチ]は、それを装着することで言語のつながりを視覚化するものだった。つまり、そのパッチを通して言葉の意味を「見る」ことができるようになる。

 もしそうしたパターンの読みかたを知っていれば、おれはすべてのプロセスをたどることができるのだろうか? プロセスを遡って第一原因に行きつくことが?
(略)
 もしパッチが、おれの魂を映しだす鏡になれるなら ―― 引き金を引くときに、おれという存在の中心からおれ自身の意志が手をのばしているのを見ることができるなら ―― 。
 その瞬間、完璧な誠実さが、完璧な理解がもたらされるだろう。
 そして完璧な自由が。/p156

つまり、自由意志はあるのか、あるとしたら、それはどういうものか、というお話(だと思って読んだ)。で、どうなるの? という結末まで、とても興味深く読めたし、面白い小説だった。ビジュアルでイメージできるっていうのはすごいな(すごいばっかり言ってますが)。
イーガンはいまだに長編が(むずかしくて)読めないんだけど、もうそろそろ…読めるようになったかなぁ。
ちなみにこの短編については末尾に作者コメントがのっています。

この物語は、マーヴィン・ミンスキー、ダニエル・C・デネット、ほかの人々の“百鬼夜行”認識モデルにインスパイアされたものである。しかし、本作中で提示したラフスケッチは、そうしたモデルがどのように働くかというおよその概念を伝えることのみを意図したものであり、こまかい点まで正しく描こうとはまったくしていない。詳細なモデルは、デネットの『解明される意識』およびミンスキーの『心の社会』で語られている。/p173

解明される意識

解明される意識

心の社会

心の社会

これを読むためには、まずどこか補強しなきゃいけない気がするんだけど…。