プルートで朝食を

プルートで朝食を [DVD]

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監督:ニール・ジョーダン
70年代アイルランドの情勢を背景に、主人公パトリック/キトゥンがロンドンへと母を探しに行き、そこで出会う人々との関わりをスケッチ風に描いたクロニクル。
パトリックは子供の頃から女装を好み、自らをキトゥンと呼ぶように良い、やがて男性を愛するようになる。その過程についての葛藤のようなものはほとんど描かれず、パトリックはキトゥンとして、あるいは後に名乗るパトリシアとして、生きることが自然であると、自覚している。その強さがとても印象に残る映画だった。
愛されたいという欲求を隠さず、しかし媚びるわけでもなく、ただ「家に帰って私が倒れてたら、病院につれていってくれる?」と尋ねる。そして、たいていの男は安請け合いするんだけど、それが安請け合いであるとわかっていても、うれしそうな顔をするかわいらしさ。自分が女であることにはこだわるが、どこか自分を投げ出しているかのようなたたずまいに、はっとさせられる。
見ながら思い出していたのは「バッド・エデュケーション」で交わされる濡れた目のことだったんだけど、あの視線にあった体温とか生々しさ、のようなものはこの主人公を演じたキリアン・マーフィーにはなく、ひたすら乙女であるように見えるのは、その女であることが欲望によるものではない(と描かれている)からなのだろう。この映画のメインは恋愛ではないし、母親探しでもない。この主人公の人となりを追っていくような構成なのに、内面をあらわにするような場面があまり描かれないことを少し不思議に感じたのだけど、パトリック・マッケーブという人の同名小説の映画化ということで納得した。
辛いことがたくさんおこっても、ドロドロした部分は極力描かないとこがちょっとおとぎ話っぽいのだけど、この物語は「人生は物語だと思ってなきゃ、辛くてやってられないわ」というような台詞にあらわれている、主人公の立ち方を描いた物語なのだと思う。次のページこそ幸運が訪れるはず、と信じてページをめくっていくこと。そのような世界の捉え方、なんてまじめな顔して言ったら、シリアスなのは嫌い、とかいわれてしまいそうだ。
この映画の、結末で提示される幸せの形がとても気に入った。
それから、このすてきなタイトルはドン・パートリッジという人の曲タイトルからつけられたのだそう。