麻酔

銀歯が外れたので歯医者に行った。
診察台にのせられるのは恥ずかしい。話しかけたりしないで、モノとして修理してほしいのに、そろそろ桜の季節ですね、なんて話しかけるから、私は口ぽかーんとあけた間抜け面のまま頷く、歯医者さんの顔は見ない。かちゃん、かちゃん、と金属が口の中かき回す。観察されるのって不快だ、けどでもそうか桜か、なんてぼんやりしてるうちに、お大事にまた来週、という言葉に見送られる。
麻酔をかけられた口がはんぶん膨張している。自分の中に自分じゃない部分があるみたいで、気持ち悪くて楽しい。顔を振ったら分離できそう、ってそういえば「BRUTAL MAN」を聴いているときによく思う。ガムすら噛めない私のだらしない口。足はちゃんと動く。
風景に違和感がある、と思ったら半袖で歩いてる人がいた。ちらちらと視界を過る半袖。彼の背中だけ夏みたいで、つい目で追いかけてしまう。電車に乗る。本を開く。閉じる。夕ご飯はおかゆ。病人気分を味わいたくなるのは、たぶん健康な証拠。でもこんな日に限ってケーキをもらう。モンブラーン。麻酔が切れたら食べようと思ったけどまだ口元だるいまんま、もう寝る時間だ。