何かをものすごく好きになるということ

昼ご飯にイングリッシュマフィンのトーストを食べながら、テレビ東京の「土曜イベントアワー 2007自給自足物語 冬の大地に生きる夢の家族SP」という番組を少しだけ見た。タイトルは今検索して調べたんだけど、ずいぶんと恣意的なタイトルだなぁと思う。けど、私が見た部分、一人で自給自足している女性を紹介していた部分は、ナレーションにもずいぶん含みが多く、へきえきした。へきえきしたけれど、私はその女性のことをすてきだなぁと思ったので、その気持ちについて書いてみたいと思う。

私の友達に、農家の後を継いだ女の子がいる。すごくすてきな人で、誠実で頑固で、苦労ばかりしていて、それこそ「愛すべき娘たち」にでてくる爽子のような人だ。少し遠いところにすんでいるし、農業には休みというものがないので、なかなか会う時間がないのだけれど、でも何かあるたびに彼女のことを思い出して、がんばらなきゃなと思う。そんな人だ。
数年前、仕事の愚痴のついでに「自給自足の生活がしたいなぁ」みたいなことを、彼女に言ってしまったことがあった。それは、ビルの非常階段に座って電話してる自分と、電話の向こうに広がっているのであろう畑とうっすら聞こえる犬の声との落差に思わず出た言葉だったのだけど、静かに「そんな楽なものじゃないよ」と返され、自分はなんて無神経なことを言ってしまったんだろう、と恥ずかしくなった。
今でもどこか、それに漠然と憧れる気持ちはある。けれど同時に、死ぬまで都会を離れないのかもしれない、手のかかった昼食を作るよりもトーストですますような生活を続け、テレビを見ながら、あんなふうに生きることもできた、なんてうらやむことをいつかは恥じなくなってしまうのかもしれないとも感じていて、それがなんだか、息苦しい。

番組に出てきた『セレブOLから大転身』した女性にとってのきっかけは何だったのか、それが気になって、食事が終わってもしばらくテレビをつけていた。ここでセレブという言葉を使うセンスは本当にくだらねーと思うけれど、テレビにうつっていたその人は、そんなくだらなさとは関係ないところにいるように見えた。実際のその人がどんな人かはしらない。けど、私がその人をすてきだなあと思った理由は、取材の最後で彼女が言った言葉に対する単純な感慨だった。
最後に、夢はなんですか、と聞かれた彼女は、それまでの寡黙さが嘘のように「稲穂」の魅力について語り出したのだ。「私はほかのひとの畑も見るんですけどね、ほんとうにうまいひとの稲穂っていうのは、輝いて見えるんですよ。私も、いつかああいう稲を育てたいっていうのが夢ですね。まずは稲、それから…野菜かなぁ」たしかそんなふうに話していた。
私は、何かをものすごく好きな人を見るのがとても好きだ。そして、あの人にとっての「きっかけ」は、農業を好きになったことなのだと思う。それこそ苦労を厭わないくらいに、好きが勝ったということなのだろう。そんなふうに、何かをものすごく好きになることで、生活をがらりと変えてしまう可能性というのは、あるんだなぁと思った。
もちろん、年をとれば可能性が少なくなるとか努力しなきゃ報われないとか云々あるけれど、何かを知ったり、興味をもったりすることで、生活はいつのまにかかわっていくものだし、変化してしまえば、それはどれが最初の一歩だったのかはわからないようなものなのだと思う。
まあ、要するに、興味を持ったら、少し踏み込んでみるくらいのことはした方が面白いよなぁ、そうしたいなぁ、と思ったということ。それがどこにつながるかなんて、死ぬまでわかんないんだきっと。