御巣鷹山

監督:渡辺文樹

町のあちこちに貼られたポスターで、その興行が近付いていることを知る。
その宣伝方法と自主制作自主上映というスタイルで知られる渡辺文樹監督の名前を初めて知ったのは大学生の頃だった。ちょうどその頃、町中に「腹腹時計」のポスターが貼られてて、映画学科の先輩たちの話にでてきたんだったと思う。
そして、その数年前に見かけて不思議に思っていた「バリゾーゴン」のことを思い出した。そうか、あのポスターはそういうことだったのねと納得して、そのときはそれで終わってしまったのだけど、今回はanutpannaさんの記事に後押しされて、見にいくことにしました。感謝。

映画「御巣鷹山」は、実際の事件を元にして描かれるフィクションなのだけど、物語としては、正直なところ支離滅裂にしか思えない。ただ、その混沌にはある種の秩序のようなものがあったし、それが私には魅力に感じられた。そして、フィクションでありながら監督の中では限りなく現実に近いのだろうなという表裏一体の質感には鬼気迫るものがあり、そしてその人は私の傍らで映写機をあやつるこの人であり、映画の中で飛び交うするあの人なのだということに、映画と今ここが地続きになる。監督の映画を見にいった人が口を揃えていうように、これは散見するポスターで気配を察知し、疑心暗鬼で会場へ向かい、監督の前口上で煙に巻かれ、監督自身の手による映写で見てこそ意義のあるライブなのだと思った。
映写機とラジカセで流す音声を同期させる手腕はなかなか手慣れたもので、このツアーはほんとうに、長い間続けられているのだなということを漠然と思う。それはずいぶんと、心強いことじゃないですか。

映画を見おわった後、クライマックスの雪景色を思い出してほくそ笑みながら、世の中はほんと面白いなと思った。見れるものは見れるときに見ておきたい、と思うのは後悔しないためではなくて、見てなんも感じないなんてことはそうそうおこらないからなんだな。