ラヴ・バズ 1・2巻/志村貴子

ラヴ・バズ 1 (ヤングキングコミックス)

ラヴ・バズ 1 (ヤングキングコミックス)

五年前、プロレスの試合中に逃亡したきりだった主人公が、子連れでジムに舞い戻ってくるところからお話が始まる。この主人公、藤は試合から逃亡するくらいの、まあ「だめなひと」なんだけど、そのへたれ具合がすごく新鮮。
女性が主人公の漫画で、だめな主人公のだめさというのは大抵恋愛におけるだめさであることがおおくて、仕事に身がはいらないとか、逃げたいとか、だりーつれーこえー、とか、そういうのあんまり描かれない。でもそれはあるんだよ、ということについて、志村さんの漫画はやさしい。
藤の、よーこちゃんやゆりに対するあこがれは、「乗り越えるべき壁」であると同時に、家族のような、近しい空気がある。でも、そこを「目標」とか、簡単に言葉をあてはめないで、なんでプロレスやるのか、「知らん」、と放り出せるところが面白い。つまり、物語のテーマみたいなところも、ある程度放り出してあって、装置としてある場が、物語を生んでいる感じがする。人を描くときに、その人が生活と結びついているところがちゃんと見える。
1巻の冒頭で社長のお父さんが亡くなるとことか、ふつう物語で人が死ぬことには「意味」がずっしりついてくるものだけど、ここは意味という必要性なんてなく、ただそれは起こって、藤が少しだけしんとした気持ちになる。こうだったから、こう描いたんだよ、といわんばかりの自然さで、第2話のえりかとお絵書きしてる場面とかもね、いいんだ。遠くじゃなくて、すぐそばにある話みたいで、だからこそ藤が好きになる。
人はそんなすぐにかわれない。でも、根性、ほしいなあって思う。

時系列に読んでるわけじゃないんだけど、どんどん志村さんの漫画好きになっている。これはたぶん、志村さんの漫画の文脈や語り口にある程度なれて、そしてそれが好きだということなんだろうな。