奇術師/クリストファー・プリースト

世界幻想文学大賞受賞作。どこかの書評を読んでずっと気になってたもので、私にとってははじめてのクリストファー・プリースト作品です。
でも読んでるうちに、これはもしかすると、今映画館で予告をやっているあの映画の原作なのでは? と思えてきて、最後あとがきをよんだらそのとおりらしい。原題のまま「プレステージ」というタイトルの映画で、監督は「メメント」のクリストファー・ノーラン。この監督の映画化だったら、きっとすごくしっくりくると思います。

最初の語り手のもとに送られてきた一冊の本から、二人の奇術師の人生がひも解かれていく。アルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャ。二人はお互いの奇術に尊敬を抱きながらも、激しく憎しみあっていた。そして最後、彼等が競い合った演目は「瞬間移動」。
整然とした文章は、ただ出来事を見たままに「記述」しているように感じさせる。時折、これは奇術師の伝記なのかしらと思える箇所もあるくらい、その記述の仕方は抑制されたもので、中盤まではその意図がよくわからない部分もあった。
しかし、各章ごとに入れ替わる視点、矛盾する出来事、哲学的な自問に思えた言葉の意味、そういったものが明かされる過程は上質なミステリー作品としての読みごたえがあって、ページをめくるスピードは確実にあがっていった。また、物語の中心にすえられている「瞬間移動」の着想はSF的な(ようなといっていいのかはわからないけど)モチーフなのだけど、ガジェットが物語の核としてずっとそこにあり、最後に包括される様はまさに奇術。
SFとしても幻想文学としてもミステリーとしても好みの作品ではないはずなんだけど、そのすべての中間にあることで、独特な、とても面白い小説だった。そして、そのたたずまいをイメージするなら、エンジャのそれだろうなと思う。

どうしても書きたいので書くと、エンジャの最後ははまるでウインストン・ナイルス・ラムファードだなと思った。