知らない町

めずらしく、外出する用事が重なった1日。会社にいたのは朝のカイギと、昼に荷物置きに戻った1時間くらいだった。仕事をお願いしたりされたり借り物したり、用向きはいろいろだけども、行ったのはど こも初めての街ばかりで、ひさしぶりにゆっくり、ひとりでぼんやりしたような気がする。もちろん、人と会っている間のことではなくて、場所から場所へ移動している間のことだけど、たのしかった。

江東区。約束の時間より少し早く着いたので、近くにあった団地中の、ベンチに腰掛ける。背後には小さな公園があって、振り返るとそこで遊んでいた子どもと目があった。2、3歳といったところだろうか。 ぐらぐらしたおぼつかない直立のまま、ぽかんとこちらを見つめている、その視線を遮った鳩が驚くほど高く、早く飛んだ。熱いので日陰に入り、おもちゃ屋の店頭にならぶ値下げ商品をじっくりと眺める。その脇には、しんとしたゲーム機が並んでいて、「ゲームは6時で切ります」と書いてあるひからびた張り紙と、このゲームを楽しみに下校してくるのだろう少年との攻防を思い、彼が今の私くらい大人になっても、そのゲームのことを、6時前の攻防を覚えていますようにと勝手に願う。

大田区。電車と比べると、バスの車内にはくつろいだ様子の人たちが多くて、それはきっと、駅と家を直接つなぐような地元の人が乗るものだからだ、とか思う。アナウンスに耳をすませるわたしの緊張は、なんだか外国にいるみたい。バスを降り、地図を持ってうろうろしていると、親切な白衣の人が私の探していた建物まで案内してくれて、ありがとうと後をついて歩きながら、そのひとの白衣の裾がひらひらとめくれるのを見ていた。

神奈川県。ここでも少し早くついたので、通りかかった書店で時間を潰す。ただ時間を潰すつもりが、その品揃えの良さにちょっぴり感動して、探してた本、一冊だけ買う。ベンチが見当たらなかったので、バス停でバス待つふりして立ったまま少し読んで、にやけた顔のまま、お願いごとをしにゆく。山盛りの資料の山、今にも崩れそうなのをそっと、見えないように押さえつつ、お話を聞く。

世田谷区にもどる。ぎゅっと建物のつまった路地を歩きながらなんだかほっとしていた。喫茶店で本を読み、コンビニのおじちゃんといつもの挨拶をかわし、満開になった山吹の前を通ると、とおくで蛙の鳴き声が、聞こえたような気がした。